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□夏のお嬢さん
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大きく広がる白い砂浜。

駆け出したくなる昂揚感を

澄んだ瞳に宿すお前

やはりお前は海の様。

【夏のお嬢さん】

俺様が従える氷帝学園のテニス部は、本日から強化合宿を開始する。
予定だったのだが。
何でも監督の榊先生が用事で明日からじゃねえと来れないとか何だとかで今日はオフになっちまった。
しかも、それが発覚したのは専用のバスに乗り、出発してから。
仕方ねえからこっちで暇を潰す事になった。
そんな中、チーム1の元気っ娘・向日が

「おい!皆、見てみろよ!近くに海あるぞ!海!」

と、バスの中で叫びレギュラー陣がはしゃぎ始めたので、今日は海で遊ぶことになった。
水着?そんなの俺様が用意させたに決まってんだろうが。
各々、俺様が用意させた水着の中から好きなやつを選んで、あっとゆう間に着替え(浪速のスピードスターも驚くんじゃねえかってほど速く)、海へと駆けて行った。

そんな中、アイツは準備に手間がかかったらしい。少し遅めに出てきた。
レギュラー陣はご存知だけどコイツはかなりいい体型してやがるから、出てきた瞬間、他の男どもが視線をそいつに集中させた。
まあ、鈍感なコイツはそんな視線に気づく訳もなく、俺様の方に悠然とやってきて

「跡部、水着ありがとな。助かったぜ」

と、笑いながら言ってきた。
俺はフッと笑い

「俺様からすればそんなこと当たり前のことだ。」

と、答えておいた。
それよりも、心配なことが一つ。

「宍戸。」

「ん?なんだよ?」

海に入るために準備運動をしていた宍戸が長い焦げ茶の髪を靡かせこちらに視線を投げた。
その目からは『早く海に入りてえんだから邪魔すんな』ってゆう気迫が出ていた。

コイツの目は実にわかりやすい。
その位、純粋で澄んでいるって事だ。
逆にその純粋さが危うい場面を生む事もあるんだが、鈍感な宍戸は今ひとつ気づいてねえ。

そんな宍戸に忠告してやった。


「宍戸、他の男に惹かれるんじゃねえぞ。」


そう言えば宍戸は、たちまち頬を薄っすらと赤く染め、眉間に少し皺をよせ

「…わかってらぁ、そんなこと…」

と、恥ずかしそうにまた髪を靡かせて歩いて行った。

俺はその後ろ姿を海と重ねる。
正確には宍戸の、あの真っ直ぐな瞳を。


絶望を味わったからこその深さがあり


貪欲に勝利を欲するから澄んでいて


時には突き刺すような、時には切なげな


これは俺様しか知らねえけど


時には甘く愛しそうな


まるで海の波のように変わるその瞳。


お前にしか表せない、ソレに


俺様は強く惹かれたんだよ。


宍戸は俺様のどこに惹かれたんだか
さっぱり答えてくれねえが。
もし同じ理由だとしたら
それは至高の喜びだ。

そしたらいつまでも二人で
広大な広さに酔って漂っていられる。


なんてそんな難しいことを考えていたら

その海は俺様に笑いかけて

また波に攫っていく。


やはり





    ―お前は海の様。


End
 

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