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□俺様の誕生日に。
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「…あ?」

別に機嫌が悪かった訳じゃねえ。むしろ機嫌は良い。ただ、この一言しか出なかった。

「…だから、その…私の家に、来ないか?」

あ の 真 田 か ら 
 さ そ い だ と ?

そんなの…

「行くに決まってんじゃねえか。」



「ついたぞ。」

「おお。」

なんつーか、真田らしいとゆうか。俺様の家には遠く及ばねえが、普通の家よりかは遥かに大きく、日本家屋の荘厳な雰囲気を放っていた。

「跡部?行くぞ。」

「…ああ。」

呼ばれて視線を真田に戻した。
門を潜り、犬走りを少しばかり歩くと母屋の正面へと導かれた。

「上がってくれ。」

「ああ。邪魔するぜ。」

入った瞬間から木の匂いがして何だか心地良かった。周りには高級そうな壺に生けてある花や、大きな筆で書いたのだろう、書も飾ってあった。

「跡部?」

「…これ、お前が書いたのか?」

「…ああ、この書は中学二年生の時、書道のコンクールで優勝を果たしたものだ。」

「………。」

コイツも何気に多才だよな…。

「行くぞ。」

ふいっと前を向いて進む真田の後をつけていく。
何となく、真田が照れていたのは気のせいだろうか。

長い廊下を進むと、やっと真田の部屋についた。
やはり和風で侘び寂びを感じさせられる部屋だ。

「そこに座っていてくれ。」

真田は金色の座布団を指差してそう言うと隣の部屋へと消えてしまった。
俺は言われた通り、その座布団に腰を降ろして、周りのものを見ながら待っていた。

「すまない、待たせたな。」

そう言って出て来た真田は…言葉に表すことができねえ。

「さな…だ…?」

「む?」

「何でてめえそんな可愛い格好してんだ?」

「かっ…!」

勢いで言ってしまったが、それも仕方ねえ事だと思う。
何故なら真田は浴衣を着ていたから。しかも髪おろして。
白と黒とのシンプルな浴衣だが真田の黒髪や、キリッとした顔付によく似合っていた。
いや可愛すぎだろ。
女神か何かか。

「こ、これは私の家での普段着だっ。」

顔を赤く染めて、慌てながら真田は答えた。
これが普段着とか…。やべえな。

「跡部?」

かなりボーッとしてしまった。
仕方ねえ、真田が綺麗すぎるから。

「…てめえに見惚れていた。」

「なっ…。」

恭しく、真田のスベスベした手を取り口付ければ

「あーん?真っ赤じゃねえの。」

「…っ!お前が悪いっ。」

と、そっぽを向かれちまった。
本当可愛いやつだな。

「…そ、それよりも、夕飯はどうする?」

「…あ?」

もうそんな時間か…。そういや…。

「…お前、ご家族は?」

そんな時間だってのに、誰一人としていねえ。
真田は俯いたまま答えようとしねえし、綺麗な黒髪で遮られて顔が見えねえから、表情から読み取るのも不可能だな…。

「か、家族はっ…」

か細い声が聞こえた。

「…家族は、明後日まで、留守だ。」

「……え。」

「家族は明後日まで留守だと言っている!意味がわからぬのか!?」

「…っ!?」

もしかして、こいつ―

誘ってんのか?

「…っあー…お前っ、本当…」

真田を引き寄せ思いっきり抱きしめる。
いつもならもがいて何とか逃れようとするのに、今日ばかりは大人しく腕に収まるどころか、抱きしめ返してきやがった。

…でも、何故だ?
何故、急にこんな事をしたんだ?

「…おい、真田?」

「…なんだ。」

顔を俺の胸に押し付けたまま真田は答えた。

「何で、こんな事をしたんだ?」

次の瞬間、真田がガバッと顔を上げた。

「…は?」

「…今日、何かあったのか?」

信じられない、とゆう顔をしてやがる。

「…お前、まさか忘れているのか?」

「あーん?何が?」

「…………今日は10月4日だぞ。」

「ああ、それがどうした?」

「……………。」

真田の頭の中で何かがプチンと切れる音がした、気がした。
次の瞬間、俺は天井を見ていた。正確には真田に背負投げされた。

「っ!?てめえ、何しやがっ…。」

真 田 が 俺 の 上 に 乗 っ て る 。

俺様の頭はその事実で薔薇色に染まっていやがるが、それにしては真田の空気が刺々しいな。
次の瞬間、その真意がやっと掴めた。


「今日は貴様の誕生日だろうが!」


「…は?」

間抜けな声しか出なかった。
すっかり記憶から消し飛んでいた、自分のBirthday。
ああ、だから真田は。

「っ…もう貴様など知らん!」

さっさと俺の上からどいてそっぽを向いてしまった。
今までの自分の行為が恥ずかしかったんだろうな。

本当…こいつって奴は…。

「…悪かった。」

後ろから抱きしめてみた。

「…っ。」

真田の頬が赤く染まるのが、後ろからでもわかった。
…体が、熱い。

「全然気づかなかった。すまねえ。」

スリ、と真田の柔らかい黒髪に顔を擦り寄せて、耳元で囁く。

「…っ…、も、もういい…。」

抱きしめた腕に、スラリとした手が重ねられる。

幸せ過ぎて気が狂いそうだぜ。

「…で、その、どうするのだ?」

「…え。」

「………泊って…行くか?」

真っ赤な顔で上目目線気味に見られながら、そう伝えられては断れる訳がないだろう。
狙ってやってんのか?
いや、こいつに限ってそれはねえだろ。

天然でこの破壊力…。
本当、かなわねえ。

「あたりめえだ。」

顔をこっちへグイ、と向かせて口を合わせる。
何度も何度も、軽くじゃれあうようなキスから、だんだん深くなっていく。
次に口を離した時には、真田の目は潤んでいて、息も熱かった。

「真田…。」

俺はその妖艶な雰囲気に取り込まれちまった。


――――

「…それが甘い夜のはじまr、っぐ。」

「もう黙れ!」

妖艶な雰囲気なあいつはどこだ。
同一人物とは思えない力に黙るしかねえ。

「しかし意外やなー…。まさか真田から誘ったなんて…。」

「さ、誘った訳では無い!」

今は初夜の話をしていた。
今日は俺のBirthdayで、誕生日パーティの後だ。
子供はもう寝てしまい、ここにいるのは俺の幼馴染の手塚(今はもう白石だけれど)とその旦那の白石と…。
今まで語っていた話の中心人物の弦里と俺だけだ。 

「…跡部、あまりそういう話をすると、真田が拗るぞ。」

「あーん?拗ねようが拗ねまいが、今日は俺様の誕生日だからな。」

ニヤッと笑みを浮かべただけで、鋭い白石には意味がわかったらしい。

「…ほんなら、俺らはもうお暇しよか。」

「蔵之介?」

白石は『後はお二人さんで楽しみいや。』と、言わんばかりにウインクをして、訝しがる自分の嫁を連れて、そそくさと退場してしまった。

本当、察しがいい男だ。


「……景吾…。」

顔を赤くさせて此方を睨みつけてくる嫁とは大違いだ。
きっとあいつらが居なくなった真意なんて気がついちゃいねえ。
…ったく。鈍感すぎる嫁に、一々気付かせんのが旦那の役目かよ。


「んな、怒るなって。」

弦里を引き寄せて、額にキスをする。
弦里はあの日と同じ様に急に大人しくなった。

「…今日ぐらい、大目に見てくれてもいいだろ?」

あーん?と、低く囁やけば、あの日の様に弦里が体を少し震わせて、示す。

もう、いい。と。

そんな様子がたまらなく愛おしくて。

(…いつまで経っても、あの日の様に初々しくいてほしいもんだな。)

察しが良くなってほしい、と思う裏腹に、こんな気持ちが芽生えてきた。

それもこれも、弦里のせい、か。

相当頭やられてるな、俺。


自嘲すると、あの日と同じめ線で、あの日と同じ表情で睨む弦里が腕の中にいた。


―誘ってんだな。


あの日と同じ、甘くて熱い夜になったのは言うまでもねえ。



End
 

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