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□冬のお嬢さん
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辺り1面銀色の世界

足取り不安定な中

初めの足跡を

さあ、一緒に


【冬のお嬢さん】


年を超え忙しない日々が通り過ぎて、いつも通り部活の練習が始まろうとしていたその日。
外へ出てみれば。

「…これは…。」

「うん、流石に…。」

「ねぇ?」

主語述語を抜かしつつもテンポよく会話をする部員達。
目の前の情景を見れば、言わん事もわかるはずだ。


コート一面、真っ白。


「…手塚。」

俺は、隣にいる人に呼びかけた。
溜息をついて景色を眩しそうに目を細めて見ている。
…少しご機嫌斜めな確率…90%。

「何だ、乾。」

「流石にこれじゃあ部活は出来ないよね。」

「…そうだな。コートに積もられてしまっては…どうする事も出来ん。」

「…なら、こんなトレーニングはどう?」






「えいっ…と、そーれ♪」

「うわ、ちょっと英里。冷たいじゃないか。」

「うおっ!?」

…皆楽しそうで何よりだ。

俺が手塚に提示したトレーニングとは雪合戦の事だった。
コートの中を走り回りながら雪玉を標的に向かって投げたり、投げられて避けたり。
体も温まるし、走り回る事でスタミナもつく。
そして何より楽しい。
冬の風物詩、雪を使って遊び感覚でトレーニングできる。
この案は手厳しい手塚にも魅力的だったようで、二つ返事でオーケーを出してくれた。

で、当の本人は?

誰よりも多く標的に当てながら、自分は未だに一つとして当たっていないようだ。

(…手塚が当てられずに逃げ切る可能性…72%。)

何てどこに使えるのかなんて俺も分からない様なデータを取り終え、俺はその場をそっと離れた。



「…予測通りだな。」

雪が積もった人気の無い敷地。
足跡の1つもなく陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

カシャッ

「…不二からカメラ借りて正解だったな。」

携帯の写真機能や普通のデジカメなんかよりも、抜群に性能が良い代物だ。
現像したら、さぞ美しい風景が浮かび上がるだろう…
なんて、1人思考を巡らせていた。

そしてその時は突然に。



バスッ…



俺の頭にクリーンヒットしたのは硬くてサラサラした雪玉。
クリーンヒットさせたのは…


「手塚ぁ……。」


雪に埋もれかけた眼鏡を拾い振り返れば、我が愛しの部長様。


「こんな離れた場所で何をしているんだ。」

「写真。」

「…写真?」

「うん。不二にカメラ借りてさ。」

前の方に目線を戻すと、彼女もそれに合わせるようにして景色を見渡した。

「…なるほど。確かに綺麗だな。」

「ああ。」

「…まだ、誰も知らないんだな。」

「…?」

視線を手塚に向ければ、キラキラと反射している雪を、目を細めて嬉しそうに眺めていた。

「…。」


きっと雪のせいだ


なんてキャッチフレーズを使っていたのは、何のCMだったか。
全く、上手い表現をしてくれたものだ。
これ以上のチャンスは無い。

まさに今を表してるんじゃないか?


「…手塚。」

「………いぬ…い?」


手を取って

さあ、初めの足跡を共に。






End
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