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□冬のお嬢さん
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澄んだ暗い空の中

白く浮かぶ2つの吐息

それを暖かく見守るのは

あまねく綺麗な星々

【冬のお嬢さん】


「うぅ…寒か…。」

冬真っ只中の二月の上旬。
いつも通り練習を終えて帰るにしても、この季節は一段ときつい。
外は真っ暗。
気温は下がる一方。
いくら運動した後とはいえ、暑さなんぞ一瞬で消えてしまう。

(もうちと早く練習を切上げてくれればええのにのぅ…。)

そんな事、大魔王の部長と鬼の副部長に言ったらどうなる事やら。
逃げ切れることは出来るけれど、後がだるい。

「はぁ…。」

ため息をついた、そんな時。


「あら、仁王君。」


後ろから聞こえた、上品で凛とした声。柔らかな口調。
振り返らなくてもわかる。

「…やーぎゅ。」

「今日もお疲れ様でした。」

少し駆けて俺の横に並び見上げてくる彼女。ふわりと靡く、ハーフアップにした薄めの茶色の髪。それにつられて漂う控えめな花の匂い。
俺の唯一の和み。
彼女に会うだけで寒さでさえ吹き飛ぶ、そんな感覚に陥る。

「おん。お疲れさん。」

「しかし今日も寒いですね。」

「そうじゃのう…。」

そう声を空中に投げ、ふとその空を見上げた。


その時、思い出した。


「仁王君?」

ボーッとした俺の顔を覗きこんだ彼女の手をきゅっと握って。

「仁王君っ?」

「やーぎゅ、ちと付き合ってもらうぜよ。」




ついたのは海岸の堤防近く。
暗い中、細くて足元の悪いコンクリートの壁を登って行く。

「仁王君?ここ…。」

「いいから、ついてきんしゃい。」

俺は相変わらず彼女の手を引いて歩いて行った。
もう少し、もう少し行けば。



「よし、ついたぜよ。」

「…ここ、ですか?」

何の変哲もない、ただの海辺のコンクリートの堤防の上。
普通なら、こんな所来ないだろう。

「やーぎゅ、上、見てみんしゃい。」

彼女は不審そうだったが、俺に言われた通り宙を見上げた。


「わぁ…!」


黒と紺の中間の夜空に、宝石の様に光り輝く星々。
冬の高く澄んだ空はとても綺麗だった。
少し前、部活の帰り道に何となしに立ち寄って見つけた、この場所。

「綺麗じゃろ?」

「はいっ、とても素敵な場所ですね。」

そんな声に引き寄せられ、隣にある温もりをきゅ、と抱きしめた。

「仁王君…?」

さらに上がった体温がじわりと伝わって来る。
ああ。

「暖かいのう。」

「…?」


「この前ここに来た時にのぅ、思ってんじゃ。どうして、ここに柳生がいないんか、って。」

「…何故、と言われても。」

「わかっとる、わかっとるよ。単なる俺の我儘きに。ただ、ここに来るなら柳生と来たい、そう思っただけぜよ。」

唖然とする君。
無理もない。唐突にこんな事を言われては。
でもふっと笑う音がして。


「…では、この先もずっと貴方の隣にいなくてはいけませんね。」

「…柳生?」

「仁王君は、この場所がお好きなのでしょう?」

「おん。」

「でもお一人では来たくないのでしょう?」

「…おん。」


「だから、この先も学校を卒業しても、ここに私を一緒に連れて来て下さい。」


「…柳生。」

「駄目、でしょうか?」

少し照れながら俺の腕の中で首を傾げる君。

「…そんな訳、ないじゃろ。」


煌めく星に誓った約束。
守るようにそっと口付けた。






End

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