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□拝啓、手塚国光様へ
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本日の課題:数学のワーク
ドドン、と効果音が出そうな程、大きな文字で黒板に書かれた朝学習の課題。
そうか、今日は数学だったか…。
いやー、今日はよく晴れてるし、何だか古風な気分だったのかな…。
黒板の文字と対照的に、僕の手に握られているのは古典のノート。
決して数学のノートと取り間違えた訳ではなく、今日が数学の日だ、っていうのを忘れていただけだ。
いや、だけだ、で済まされる事じゃないんだけれど。
でも忘れたものは仕方ない、今更取りに行くには担任の教師を吹っ飛ばして行かないといけないし、ここは開き直って寝てみようかな…。
いや、絶対ビンタを喰らうな。それだけは御免だよ。
仕方ないな。ワークは持ってるんだし、やってる振りをしよう。うん。
という訳で、ノートを開いてみたのは良いものの。
ノートが変わるとやっぱりやる気無くすんだよね…僕。
数字の無いノートを見ただけでテンションは急降下。
「あれ?不二、どしたの?」
伊達に三年間同じクラスやってないね…。
僕の様子に気づいたみたいで、隣の席にいる英二が声をかけて来た。
「ノート、間違えちゃってね。やる気がさっぱり出ないんだ。」
ぐだっとしたまま答えれば、英二は暇な僕に何をさせようか考えてくれているみたいだ。
ちょっとしてからピーンと
、まるで何かを受信したかの様に表情を変えて。
「ねえ、不二!なら、手塚に手紙でも書いてみたら!?」
これは予想外の発想だよ。
どうかにゃ?どうかにゃ?と、聞いてくる英二がいつもより可愛く見えた。
何でだろう。
「そうしてみるよ、ありがとう。英二。」
手紙、ね。
思っても見なかった。
二人共言いたい事は面と向かって言うタイプだったし(それで喧嘩になるのもザラなんだけど)、いつも側に居るから手紙なんて必要なかった。
でもたまにはレトロな気分になってみるのもいいかもしれない。
…古風な気分だったのかな、って思ってた程だし。
(んー…。言いたい事…か。)
思いつく限りの事をスラスラと書き綴って、ちょっとした川柳なんかをいれて。
敬具、としめたところで上手い具合にチャイムがなった。
うん、我ながら上手い出来。
(どうやって手塚に渡そうかな。)
―ああ、彼の反応が楽しみで仕方がない一時間目。