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□我儘
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例えば
少しだけ目を細めるとか
顔を背けるとか
どこか一点を見つめてみるとか
言葉以外にも自分を表現する手段はたくさんある。
『手塚ってさ』
『…?』
『無口だし無表情だけどわかりやすいよね。』
そう乾に言われたのが一週間前の事だったか。
『…そうか。』
『うん、正直今、納得してないでしょ。』
『……。』
『何故わかるかって?簡単だよ。』
『俺は君のデータを欠かさず更新しているからだよ。』
別にこいつの場合、それは変態的な意味ではない。
それがこいつのスタイル、日常、日課。
俺に限ったことではなく、他の人のデータも事細かく収集している。
だからといって、普遍的な人間がやれば男子だろうが女子だろうがそれ以外の性であろうが、ただの変人にすぎない、のに。
『でも、そのくらいお互いの事わかってないと、辛いんじゃない?』
なんて、助言されてはお終いだ。
俺には幼馴染がいる。
他校ではあるものの、同い年の。
家もすごい近いというわけでは無いが、歩きでも行ける距離だ。
とは言えど、その幼馴染はほんの一年前まで外国に行っていたものだから、それ以前の彼の記憶は、一回帰国した時の小学三年生の頃の少し大人になっていた無邪気な笑顔くらいだ。
(まあ、それがいつの間にかあんな自信に満ち溢れたナルシストの様な笑顔になってしまったのだか。)
検討もつかない。
中学に入ってすぐ、彼と再会した。
彼は敵校の部長になっていた。
(自信満々にも程がある。)
なんて呑気に思っていたら俺も青学のだいぶ重要な役割につく事になった。
(そうか)
(幼馴染は似るものなのか。)
それならば、何故
こんなにも表現の差があるのか。
別にコンプレックスではない。
それはそれで心理戦にも役立つし、笑う事や泣く事くらいできる。
ただ少し乏しいだけなのに、皆して無表情だと言うのだ。
しかし幼馴染の彼は自己表現しすぎなくらいなのだ。
よく神様は足して2で割らなかったものだ。
気にしてない訳でもない。でも、今は少し気にしてる。
というよりかは、呆れてるに近い。
(もっと伝えるのが上手であれば)
(もっと表情が豊かであれば)
(あいつもわかってくれるのだろうか。)
(それとも乾の様に、あいつがもの凄く察しがよかったら)
(この言葉も。)
(なんて)
なんて
俺の我儘。
(好きです、察して下さい。)
end