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□おしくらまんじゅう
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マフラーの隙間から息を吐けば、空気が白く染まる。
テストやら文化祭やらで忙しかった秋を駆け抜ければ、いつの間にやら空気が冷たくなっていた。


冬だ。
俺が二番目に苦手な季節。


「ぴよ………。」

意識せずとも体が震える。
…まだ11月上旬だと言うのに、コートが欲しい。

「…仁王?」

そんな俺の様子に、隣にいた真田が声をかけてきた。
夏に惜しげもなく晒していた彼の少し色の濃い肌も、寒さによって所々赤くなっていた。


これを見ると


「むっ…?」


一層冬になったって、実感する。



「………何をしている。」

「ん?暖かいじゃろ?」

真田の頬を自分の手で包み込む。
さっきまで手袋をしてたからまだ少し暖かいはずだ。
真田の頬は寒さのせいか、もしくは他の何かのせいか、少し赤くなった頬は冷たくて。
俺の暖をじんわりと受け取っていく様だ。

「…お前は寒いのは嫌いだろう?」

「…おん?」

突如投げかけられた疑問を疑問形で返す。

質問の意図がわからん。

そういう俺の気を察したのか、真田は少し眉間に皺を寄せた。
今でも随分大人びてんのに、更に老けるぞ。
そう言いたくてたまらない。

「っ、だから!」


キレんでもいいじゃろ、そう言いかけた瞬間。


手に、手が重なる。


俺のよりも少し大きくて見た目よりも柔らかい、俺だけが知っている真田の手。



「……俺の冷えた頬に触れては、お前の手が冷えるだろう…。」



彼の頬が更に染まる。
明らかに、寒さのせいではない。
重ねられた手も、少し温度が上がった気がした。


「…心配、してくれたんか?」

「そうだと言っている!」

明確には言っとらんよ、なんてからかう余裕も無く。
きっと詐欺師らしいしたり顔もどこぞへ吹っ飛び、間抜けな程驚いた顔をしているんじゃないか、俺。


じわじわと、真田の暖まった頬から体温が移って来て。
顔がその温度にほだされるのも、時間の問題のようだ。


「…案外、寒いのも悪くないのぅ…。」


少し冷えた真田の頬に、リップ音をとその呟きを残して、体温をプレゼント。












寒いのなら、暖め合えばいい。



寒い日の教訓。




End

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