夏目友人帳

□たとえ
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私という妖は、かつてこれまで人間というものに触れていたことがなかった。

ましてや一緒に住み、寝食を共にし、ましてや、

恋だの愛だのなんて囁くことなど

ありえないのだった。

人間なんて、所詮自分勝手だ。
身勝手で、気まぐれで、そのくせ群れる事を好む。
そうして自分たちの条件に合わない者は、省いて、嘲笑し、放っておくのが大好きなのだ。

そんな生き物と日がな一日共にいるなど、御免こうむると思っていた。

何しろ私はその身勝手な生き物共に封印されたのだから。

毎日毎日、祠の中で招き猫。

そりゃあこうも思うだろう?

おかげでこの愛くるしいフォルムが染み付いてしまった。
夏目はブサイクだの何だのと言う。失礼な奴だ。

そう、夏目。

夏目が、私を開放した。
封印を断ち切った。

夏目は、人の子のくせに省かれていた側だった。

暗闇をさまよう時間が長かったのだろうか。
儚くて、消えてしまいそうだった。

いつも夢は暗闇の中で、嘲笑と欺瞞の目とを向けられていた。
その度に、涙を流し、傷を作る。

なんと優しく愚かしい。

友人帳を奪おうとした時もそうだった。
私でなかったら了承などしないのだから。

今でも時々涙を流す夜がある。

だが、最近は以前に比べ、落ち着いているようだ。
良かったと思う。

最近、夏目にそのことを言ったら、
「先生のおかげかな、安心するから…」
と言っていた。
恥ずかしくなることをサラっというヤツだ。
とりあえず、撫でておいた。

ああ、私の愛しい人の子。
私の愛しい夏目。

どうか、この幸せが長く続きますように。
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