雑木林

□暗闇の中の、君
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鬼灯は、天国の道を、漢方薬局に向かって歩いていた。
何時もの薬の受け取りである。
ついでに、最近白澤を見かけない、と衆合地獄で噂になっているので、様子見も兼ねていた。
なんせ、鬼灯のメールに一切答えないのだから、何があったのか、と思っていた。

「こんにちはっ!!」
「うおわっ!?」

勢い良く扉を開けると、白澤はカウンターにいた。
桃太郎はその前で、薬の調合をしていた。

「あっ、鬼灯さん!」
「こんにちは桃太郎さん。薬の受け取りに参りました。」
「もう少しですので、待って下さい。あ、お茶用意しますね。」

調合の手を止め、お茶を煎れに行こうとする桃太郎に、鬼灯は違和感を覚える。

「桃太郎さん、貴方が調合するなら、この駄獣にやらせればいいですよ。」
「誰が駄獣か。」
「そ、それが…、」
「桃タロー君、僕が煎れてくるよ、大丈夫。」

なんだかおかしい、と鬼灯は思った。
なぜ、桃太郎はこんなに気遣っているのか。
なぜ、白澤に違和感を覚えるのか。
分からない。

暫く考え込んでいた鬼灯だったが、急に奥から大きな音がして、思考は中断された。
桃太郎がすぐさま、白澤の名を呼びながら奥へ駆けていく。
鬼灯も、何事かと付いて行く。

そこには、割れた湯呑みと思われるものと、びしょ濡れの白澤が立ち尽くしていた。

そして白澤は、見当違いの方向を見て、言った。

「ごめん、桃タロー君…水、かかっちゃって、驚いて落としちゃった、ほんとごめんね。」
「だから言ったじゃないですか!部屋で休んでてくれって!!店にいるから、こんな事になるんですよ!?」

怒る桃太郎とは対照的に、白澤はケロッとしたものだった。
それどころか、向きを直して言うのだった。

「ん、こっちか。わかったよ、部屋に行くよ。」

白澤はふらふらと、壁や前に手をかざしながら歩いていく。

「どっかぶつかっても困るんで、待ってて下さい。」
「大丈夫だって、僕神獣だよ?すぐ治るよ〜。」
「じゃあなんで目が治らないんですか!?」

声を荒らげる桃太郎と、申し訳なさそうな白澤。
違和感に得心がいった鬼灯は、背中が凍りつく思いだった。

「白澤、さん?」
「!!ほ、鬼灯…?あ、はは、ちょっと見えなかったよ、影薄くなった?」

明らかに視界に入る位置にいたのに、白澤には見えていなかったようだった。
鬼灯は、明確な答えを欲しがった。

「白澤さん、答えてくださ、」
「桃タロー君。終わった?ごめんね〜鬼灯。ちょっと今日調子悪いから、相手はまた今度ね。」
「!?は、白澤さん!!」

桃太郎に支えられ、部屋の奥へと消えた白澤を、鬼灯はぼうっと見つめるのだった。
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