リスのコラさんとハムスターのロー シリーズ

□リスのコラソンとハムスターのロー
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 あるところに、ハムスターのローがいました。
 ヒマワリ畑で生まれたローは、ヒマワリが大好きでした。
 ある日、ローはヒマワリの種の次に好きなキャベツが食べたくなり、ヒマワリ畑の隣にあるキャベツ畑に向かいました。
「たまにはヒマワリの種以外も食べねェとな」
 とっとことっとこ歩いていたローは、キャベツ畑に向かう途中で犬のルフィに出会います。
 ルフィはこの一帯の畑の持ち主に飼われている仔犬ですが、仔犬でもローに比べたらとても大きいものです。
「あーっ、トラ男ーっ! 遊ぼうぜー!」
 ローは何故かルフィにトラ男と呼ばれていました。
 ローを見つけたルフィが、キャンキャンと鳴いて走ってきます。
「ゲッ、麦わら屋…!? 嫌だ、遊ばねェ! お前この間おれを舐め回して齧ったから嫌だっ!」
 ローも何故かルフィのことを麦わら屋と呼んでいました。
 走ってくるルフィに背中を向けたローは、全速力で走ります。
「追いかけっこか? 負けねェぞーっ!」
 走り出したローを見て、ルフィも走り出しました。
 ローはすばしっこいので隠れるのが上手です。
 小さな体であちらこちらに隠れながら逃げますが、その代わりにルフィは鼻が利きました。
 上手に隠れたローをすぐに見つけて、楽しそうに追いかけます。
「来るんじゃねェーっ!!」
 ローも負けてはいません。
 お菓子の家があると噂されている森に駆け込んで、急いで何処かに隠れました。
「トラ男、何処だ? ん? 甘い匂いがするーっ!」
 ローを追いかけていたルフィがお菓子の匂いを嗅ぎとり、方向転換をして走っていきました。
「た、助かった…」
 走り疲れてぐったりとしたローは、木の根元にぱたりと倒れます。
 もう一歩も動けそうにありませんでした。
「ん? リス…? おいお前、大丈夫か?」
 倒れたローに心配そうに声をかけたのは、この森に住んでいるリスのコラソンです。
 コラソンは日課であるドングリを集めに森を歩いているところで、ぐったりと倒れているローを見つけたのです。
「リス…にしては、なんか変だな。お前、その尻尾はどうしたんだ? 大丈夫か?」
 心配性のコラソンはローに近づいて頭を撫でてやります。
 コラソンはローを見たことのないリスだと思いました。
「だいじょぶ…。犬に追いかけられて、ちょっと疲れただけだ…」
 ローがそう答えると、コラソンが泣き出しました。
「お前っ、犬に尻尾を齧られちまったのか!? 可哀相によォ…。コラさんが面倒見てやるから、安心しろっ!!」
 コラソンはローをリスだと思い込んでいるようです。
 ボロボロと涙を流しながら、コラソンはローを抱き上げます。
「うわっ、何するっ!」
「おれの巣は高いところにあるし安全だ。これからおれと一緒に住めばいいから、もう何も心配いらねェぞ」
 コラソンはローを抱えたまま走り出し、自分が住んでいる大きな木のところまで移動すると、器用に巣穴まで登ってローをふかふかの干し草のベッドに寝かせてあげました。
「ところでお前、名前は?」
「ロー…。じゃなくて、おれをひまわり畑に帰してくれ!」
 ローの名前を聞いたコラソンは、貯め込んでいるドングリの中から一番キラキラと輝いているドングリを手にします。
 そのドングリをローに渡して、コラソンはニッコリと笑いました。
「大丈夫だ。おれとローが余裕で食っていけるだけのドングリがこの巣にはあるんだ。だからローは安心してここに住めよ」
 ローにそう伝えたコラソンは、自己紹介がまだだったことを思い出してローに自分の名前を教えました。
「おれの名前はコラソン。コラさんって呼んでくれ。これからヨロシクな、ロー!」
 コラソンはニコニコ笑ってローの頭を何度も撫でます。
 ローは自分がハムスターであることを伝えるのも忘れたまま、コラソンと一緒に暮らすことになりました。



 ローもあまり足を踏み入れたことのないこの森は、色んなものがあるようです。
 自分だけでは巣穴から降りられないローは、毎日コラソンからこの森の話を聞くのが楽しみでした。
「なあ、コラさん。泉にヒマワリの種を落としたら、泉の女神は金と銀のヒマワリの種もくれんのか?」
「さあ、どうだろうな? でも、近頃はそれ目当てで泉に物を落としてくるヤツらが増えたって、女神がぼやいてるらしいからなァ…。そういえば、お菓子の家に住んでいる魔女は、建てても建ててもどっかの仔犬が食い荒らしに来るから、近々引っ越す予定だって言ってたぞ」
 それはルフィのことではないのかとローは思いました。
「アイツ…、元気かな」
 ヒマワリ畑に住んでいた頃は、毎日のようにルフィとその兄であるサボとエースの鳴き声が聞こえていましたが、この森は鳥の鳴き声くらいしか聞こえずに静かなものです。
「ヒマワリの種…、久々に食べてェな…」
 ローがぽつりと呟きます。
 コラソンとの生活に不満はなかったローですが、ヒマワリの種が大好きなローはもう一ヶ月以上もヒマワリの種を食べていないことを思い出しました。
「ロー…。ほ、ほら! このドングリ、すっげーでかいだろっ!? これ食って元気出せよ!」
 しゅんとしたローに、コラソンは今日集めてきたドングリの中で一番大きなドングリをローに見せます。
 小さな手でドングリを受けとったローは、ドングリをぎゅっと抱きしめました。
「コラさん、食わせてくれよ」
 大きなドングリを齧ることは、小さなハムスターのローにとっては一仕事です。
 だからコラソンはいつもローの為にドングリを齧り、食べやすくしてからローに食べさせていました。
「ロー、ヒマワリ畑に帰りてェか…?」
 コラソンにそう言われたローは、ゆっくりと首を横に振りました。
「ヒマワリの種が食べたいだけで、別に帰りたい訳じゃねェ。コラさんと一緒にここにいる…」
 はじめの数日間は帰りたいと思っていたローですが、コラソンがあまりにも優しいので、ローはいつの間にかコラソンとずっと一緒に暮らしたいと思っていたのです。
「ローッ!!」
 ここにいたいと言ってくれたローに感動したコラソンは、ローを思いきり抱きしめました。
「明日、7人の小人の家に行ってみねェか? あそこには白雪姫って人間が住んでいるらしくて、色んな花を育ててるんだとよ」
 だから、もしかしたらヒマワリも育てているかもしれない。
 そう言ったコラソンに、ローは目を輝かせて大きく頷きました。



 次の日、コラソンとローは朝早くから小人たちの家に向かいました。
 小人たちの家に向かう途中の花畑で、赤ずきんをかぶった女の子が花を摘んでいて、それを悪そうな顔をしたオオカミが見て笑っていましたが、コラソンがよくある光景だと言うのでローは無視してコラソンの後に続きます。
「コラさん、あの塔の窓から長い髪を垂らした人間がいる」
「ああ、アイツはラプンツェルだ。ほら、もうそろそろ小人の家に着くぞ」
 見えてきた家の前には、いくつもの花壇が作られていて、その中にはローの大好きなヒマワリもありました。
「だから、今度アリスとラプンツェルといばら姫とシンデレラでパーティーを開きたいのよ。何処かにいい仕立て屋さんいないかしら?」
「それなら、馬鹿には見えない布で素晴らしい衣装を作るって仕立て屋がいるらしいけど」
「じゃあ、早速呼んでちょうだい。あら、いらっしゃい」
 7人の小人に囲まれて話をしていた白雪姫が、コラソンとローに気づいて可愛らしく微笑みます。
 コラソンはヒマワリの種が欲しくてやって来たことを白雪姫に伝えました。
 白雪姫はコラソンとローが持てるだけのヒマワリの種を袋に入れて持たせてあげ、畑の作り方も教えてあげました。
「リスさん、可愛い子連れてるのね」
 白雪姫の言葉にコラソンが答えます。
「おう、おれのお嫁さんだ!」
「えっ!!?」
 ローは驚いてコラソンを見ましたが、コラソンは嬉しそうに笑っています。
「ま…、いいか…」
 帰り道、時計を持ったうさぎが慌てて穴に入り、それを女の子が追いかけているのを見ながらコラソンが口を開きます。
「ロー、おれさ…。子供いっぱい欲しいから、帰ったら頑張ろうな!」
「え………」
 ローはまだコラソンに自分がハムスターであることも、男だということも伝えていませんでした。
 ニコニコと笑うコラソンにローは何も言えず、ただ静かに頷きました。





END

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