リスのコラさんとハムスターのロー シリーズ

□リスのコラさんとハムスターのローのちいさなお花
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 今日は、ローとコラソンが一緒に住みはじめて、一年ちょうどの日でした。
 コラソンはローが起きる前の、朝早くから食料の調達に出ていて、家である巣穴にはローしかいません。
 目を覚ましたローは丁寧に顔を洗って、巣穴から顔を覗かせました。
「………高ェ…」
 地面を見下ろしたローは、きゅっと縮こまって巣穴に戻ります。
「コラさん。今日はどこまで行ったんだろ」
 お昼になると鳴く鳥が鳴いていないので、今はまだお昼になっていないことが解ります。
 もう一度巣穴から顔を覗かせたローは、決心したように頷きました。
「よいしょ、よいしょ…」
 お尻から巣穴を下りはじめたローが、小さな手でしっかりと大きな木を掴んでいます。
 いつもはコラソンに運んでもらっているので、ローが一人で巣穴から出るのは初めてのことでした。
 一所懸命に木を下りていたローでしたが、地面まではまだまだで、段々と手が疲れてきたようです。
「うわぁーっ!!」
 手が滑ったローは、ズルズルと木から滑って、どすんと地面に落ちました。
「イテ…テ…」
 お尻が半分に割れてしまいそうな痛さに、涙目になりながらローは自分のお尻を撫でます。
 暫く動けなかったローですが、お尻が痛いのを我慢してゆっくりと歩きだします。
「ヒマワリ畑の隣…。まだあの綺麗な花、あるかな…」
 ローは、自分が生まれ育ったヒマワリ畑を思い出します。
 ヒマワリ畑の隣には、小さな花畑があって、その小さな花畑には可愛らしい沢山の花が咲いていました。
 赤色や黄色や青色、オレンジ色やピンク色の花が沢山咲いている中でも、ローは小さく咲いている白い花が大好きでした。
 今日はコラソンと一緒に住みはじめた日でもあるし、コラソンに初めて出会った日でもあるから、ローは白い花をコラソンにプレゼントしようと思ったのです。
 いつもコラソンはローに色んなものをくれますが、ローはまだコラソンに何かをプレゼントしたことがありません。
 喜んでもらえるといいな。
 そう思ってローはヒマワリ畑に向かいます。
「あーーーっ! トラ男ーーーッ!!」
「げっ…、麦わら屋…っ…」
 ローに向かって大きな犬が駆けてきます。
 麦わら屋と呼ばれた犬はルフィという名前で、一年前はまだ小さな仔犬だったルフィですが、今では大きな犬に成長していました。
「ひっさしぶりだな、トラ男ーっ! 今までどこにいってたんだよ。心配したんだぞ」
「うわっ、噛むなっ! 舐めるなァッ!!」
 カプカプと甘噛みをされてルフィに舐められたローは、ぐったりとして動くことも辛くなってきました。
「や、やべェ…。トラ男、大丈夫か? うわーっ、エースーッ、サボーッ!!」
 動かなくなってしまったローを見て慌てたルフィは、ローを銜えて家まで大急ぎで走ります。
 森の入り口辺りから、ヒマワリ畑の近くにある小屋まで一気に走ったルフィは、はあはあと息を切らしながら小屋に入って、エースとサボの前にローを下ろしました。
「トラ男が死んじゃうううぅぅーっ!」
「ハァ? 虎?」
 ルフィよりも更に大きな犬が、ぐったりとしているローを見ます。
「大丈夫だ。気を失っているだけだ」
「本当か、サボ!? エースもちゃんとトラ男見てくれよ」
 ルフィに言われて、エースはクンクンとローの匂いを嗅ぎます。
 よだれがローの顔に落ちて、エースのお腹がグーと鳴りました。
「オイオイ。腹減ってんなら皿に肉があるから、そっち食えよ…」
呆れたようにサボが言って、エースとルフィは肉を食べはじめました。
サボはローを銜えて、水入れまで移動します。
 水入れにローを浸けて、汚れた身体を綺麗にしてあげると、ローがくちゅんとくしゃみをして目を覚ましました。
「気がついたか? お前、傷だらけだけど、これ全部ルフィがやったのか?」
 だったら、もっと加減をするように叱らなけらばいけないと言ったサボに、綺麗に洗われた身体を見てローは違うと返事をします。
「擦り傷や打撲は、木から落ちたからだ。急いでるから帰る。世話になった」
 ローはペコリとお辞儀をして、のそのそと小屋から出ていきました。
「うわあああぁーっ!!」
 小屋からローが出て行って間もなく、外から聞こえたローの叫び声に、ルフィとエースとサボが小屋から飛びだします。
「トラ男っ!? 大丈夫…じゃねェよな、それ…」
 少しだけお尻をネズミ捕りに挟まれてしまったローが、動けずにじたばたともがいているので、エースとサボが協力してネズミ捕りからローを救ってあげました。
「しり…、尻が割れちまいそうだ…」
 今日だけでお尻に受けたダメージが大きいと思って、ローは泣きそうになります。
「大丈夫だ。おれたちを飼ってるじいちゃんの尻は半分に割れてるけど、トラ男の尻はまだ割れてねェぞ! 少し毛がハゲちまってるけど…」
 そういえばお尻がヒリヒリすると思ったローですが、もう帰っているはずのコラソンが心配してもいけないので、ルフィたちにお礼を言って花畑に急ぎました。
 花畑はローがいなくなった一年が過ぎても変わらないままで、綺麗な花を咲かせて風に揺れています。
 ローは大好きなコラソンの為に、白い花の茎を齧って切り、銜えられるだけの花束を銜えて森に急ぎます。
 巣穴の近くまで戻ってきたローは、コラソンの名前を大きな声で呼びました。
「コラさん! コラさーん! おれ、帰ってきた!」
「ローッ!!? お前っ、どこに行ってたんだよ! 心配したんだぞ!」
 物凄い勢いで巣穴から下りてきたコラソンは、ローをギュッと抱きしめました。
「コラさん。おれ、コラさんにどうしてもプレゼントしたくて。この花…、おれの好きな花。コラさんと初めて会って、一緒に暮らして一年目の日だから。いつもありがとう」
 ローは小さな白い花の花束をコラソンに渡して笑います。
「ロー…ぉおぉぉぉ…」
「なっ、なんで泣いて…」
 ポロポロと涙を零したコラソンが、声を上げて泣きはじめました。
 困ったローはコラソンを抱きしめて、背中を撫でてあげます。
「ありがとう…。おれ…、お前がいなくなって…、蛇にでも食われちまったんじゃねェかとか、誰かに攫われたんじゃねェかとか、凄く心配で…」
「ご…、ごめん…」
 泣きじゃくるコラソンを見たローは、黙って出ていったことを反省しました。
「コラさん…。もう泣き止んでくれ…。おれ、コラさんに喜ぶ顔が見たくて勝手に出ていったんだ。もう一人でどこにも行かねェから。今度からはコラさんに連れて行ってもらうから」
 でないと、ローは一人で巣穴に戻ることすら出来ません。
 涙に濡れたコラソンの顔を舐めてあげると、グズッと鼻を鳴らしたコラソンがローに背中を向けました。
「帰ろうぜ。腹減っただろ? お前の好きなヒマワリの種の他にも、トウモロコシやチーズもいっぱい集めたんだ」
 今日は出会って一緒に住みはじめて一年目の日だからと、ぐしゃぐしゃの顔で笑ったコラソンに、ローは泣きそうになりながらうんと頷いて、コラソンのふさふさの尻尾に座って背中に捕まります。
 コラソンはローが背中に乗ったのを確認すると、大切そうに白い花を抱えて器用に木を登りました。
 ローが何分もかかって下りた巣穴でも、コラソンは簡単に登って、一分もかからずに巣穴に入ります。
「…ただいま」
「おう! お帰り、ロー!」
 コラソンはまたローをギュッとして、沢山のキスを送ります。
「ところでお前…、怪我してるだろ。見せてみろ」
「これくらい…、平気だ…」
 コラソンがローをじっと見つめれば、ローは傷を見せないように後ろを向きます。
「お前っ、尻…っ。めちゃくちゃ怪我してるじゃねェか」
 ローが後ろを向いたことによって、コラソンにお尻の怪我を見られてしまいました。
 コラソンはローのお尻を抱いて、毛がなくなってしまっている部分をペロペロと舐めはじめます。
「ひゃあっ!!? コラさんッ! な、舐めなくていい…から」
「うるせェ…。痛かっただろ? ゴメンな、ロー…。尻尾ふさふさにする前に、先にこっちを治さなきゃな」
 逃げようとしても、コラソンががっしりとお尻を捕まえているので、ローは逃げることも出来ずに黙ってお尻を舐められました。
「飯、食ったらよ。ラプンツェルのところに行って診てもらおうぜ」
「ラプンツェルって、あの塔のところにいる?」
 塔の上から三つ編みを垂らしている女の子は、ローも一度だけ見たことがあります。
「あの塔は診療所だからな。人間だけじゃなく、動物たちもお世話になってるんだそ」
「そうなのか…」
 コラソンがお昼ご飯の準備をして、ローが大きな葉っぱで作ったテーブルの上に白い花を飾ります。
 ヒマワリの種やトウモロコシ、チーズや花の蜜のジュースで二人のお祝いをしたコラソンとローは、どちらからともなく抱きしめ合ってキスを交わしました。
「コラさん。これからもヨロシクな」
「おれもヨロシクな。これからもずっと一緒だ!」
 クスクスと笑い合って額をくっつけたコラソンとローは、離れないというようにギュッと抱き合います。
「あ、そうだ。ラプンツェルにローがどうやったらおれの赤ちゃん産めるか聞いてみようぜ」
「え…、ええっ…!?」
「でさ、帰ったら子作りしようなっ、ロー♡」



おしまい

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