treasure
□『小鳥』
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熱くなる目頭に堪えきれなくなった嗚咽が漏れる。
おれは後ろから抱き締めてくれるコラさんの腕を掴み、もう片方の手で涙を吸い取るドフラミンゴのシャツにしがみついた。
「…泣くな」
「おれたちが居る」
2人の温かな声が故郷に降る白のように痛みも苦しみも悲しみも弱さも、全て覆い包んでいく。
おれの手を挟むように2人の手が重ねられて、しゃくり上げる呼吸が充分に落ち着くまで何度もキスは降り注いだ。
本当に優しく優しく、大切なものに触れるみたいに…。
それがあまりにも気持ち良くて、やがて珀鉛に侵食された肌に触れてきたときもすぐには理解できなかった。
「だ、だめだよっ! 感染るかもしれないのに!」
ドフラミンゴが腕の、コラさんが首の、硬くなった場所にそれぞれ口付ける。
感染病ではなくとも口にすればそれだけでリスクがあると知っているのに、2人はお構いなしに唇で舌で肌をなぞる。
焦るおれはいやいやと首を振って抵抗するが、子供の力で大人2人を止めれるわけもなく。
頑なだった心も幾度となく繰り返される口付けに解されて、嗚咽とは違う、熱を含んだ吐息が胸を逸らせ始めた。
「は、あ…っ、ドフラぁ、コラ、さん…っ」
「教えただろうロー。ちゃんと呼べ」
胸元から見上げてくるドフラミンゴのサングラスはいつの間にか外されていて、その珍しい桃色の双眸がおれを捕らえる。
「……、…ドフィ…っ」
「ああ」
本当に近い者しか許されない呼び方で呼ぶとドフラミンゴは心底嬉しそうにおれの唇に自分の唇を重ねた。
頬を大きな手に包まれて捧げるように施されるキスは甘く、思考回路が急速に蕩けていく。
「ロー、おれも呼んでくれ」
「…ぁんっ、ロシー…!」
整った歯列に耳を食まれ、濃厚な口付けの隙間に、求められるままコラさんに呼びすがる。
それは今では血の繋がった兄すら呼ばない名だと聞いた。
ドフィもロシーも特別な名前。
それを呼んでもいい喜びは小さな胸を満たし、呼ぶことを2人から望まれる幸せは生きている実感を与えてくれる。
ばくばくとうるさいほどに高鳴る鼓動も、空っぽのおれに2人が与えてくれたもの。
だからおれは2人に同じものを返したい。
おれが持つありとあらゆるものをドフィとロシーに全部。
「好き。ドフィもロシーも、2人とも好き…!」
2人の手をぎゅうっと握って、温もりを痛いほど感じながら、2人のためだけに生まれたこの感情を伝える。
「ロー、愛してる」
両方の耳から入ってきた2人の声がおれの中でピタリと重なった。
ああ、神さま。
おれはまだ生きていたいよ。
他のどんなものもいらないから、
どうか、
どうか、
2人のいちばん傍で生きさせて。
それは、
奇跡が降る少し前の夜だった。
†終わり†
→次ページに後書き。