コラさんとねこのロー シリーズ

□コラさんとねこのローの日常
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 拾った仔猫に人間の飯を食べさせたら、猫耳と尻尾つきの人間の姿になった元猫のロー。
 人間の姿になったローと過ごして一年ほど。
 おれもローも相変わらずの生活を送っていた。
「うぐ…。お…、重い…」
 久々の休みで惰眠を貪っていたら、不意におれの腹から胸にかけてずしりとした重さが広がる。
 目を開ければ視界を覆ったのはローの尻。
「ろ…、ロー…」
 猫の頃からおれに尻を向けて寝ていることも多かったが、それは人間になってからも変わらないらしい。
「お前…、いい加減に服を着ろ」
 何故か服を嫌がるローは当然パンツを履くのも嫌がる。
 つまり、今おれの目の前にあるのは、すべすべとして適度に弾力のあるローの生尻な訳で。
「こらっ!」
「ふぎゃっ!!」
 ペチンと叩いてやるとローの尻尾がぶわりと膨らんで、おれの身体から降りたローが何するんだと言うような目で睨んできた。
 不機嫌らしいローは無言のまま尻尾でピシピシと床を叩いている。
 まだ眠気の残る頭を掻き、おれはローを見た。
「飯にするか。腹減ってるんだろ?」
 ご飯と起こしに来たローを無視して惰眠を貪ること三回。
 おれの言葉にローの尻尾がピタリと止まる。
「前にテレビで見て食いたいって言ってた鮭のクリームパスタ作ってやるから、機嫌直してくれ」
 残業続きで疲れて起きられなかったんだ。
 寂しい思いをさせているのは解るが、おれが体調を崩してしまったらローの世話が出来ないからな。
「鮭は、いっぱいがいい…」
「クスッ。任せとけ!」
 ぽつりと呟いたローに笑ったおれは、顔を洗って着替えてからすぐにキッチンに立った。
 ローのリクエストの通りに鮭は3切れと多めに入れて、ほうれん草としめじを炒めてコンソメ風味のクリームと共に茹で上がったパスタに絡める。
 テーブルにそれを並べて、これまたローが飲んでみたいと言っていた鮮やかなグリーンの炭酸ジュースをグラスに注いでストローを挿してやる。
「ふわああぁ…」
「いっぱい食えよ」
 先ほどまでの機嫌の悪さは何処へやら。
 心なしか目を輝やかせたローがフォークを手に取った。
 フォークで鮭を刺して口に運び、ニッコリと笑うローの顔はまだまだ幼い。
 パスタも同じように掬って食べたローは、もごもごと口を動かして満足そうな表情を浮かべている。
「美味いか?」
「んまいっ!」
 そうかそうか、それは良かった。
 だが何故かローの食い方に違和感を抱く。
 その正体が何なのか解ったのは、ローがジュースのストローに口をつけた時だ。
「………?」
 ジュースを片手にローがフリーズ。
 何かを悩んで首を傾げたローに、確信した言葉を紡いだ。
「お前…、吸えねェのか?」
「コラさん…。吸う…って、なんだ…?」
 ぺろぺろとストローを舐めているが、そんなので飲めるはずがない。
 それよりも、吸うという動作をどう説明していいのかおれは解らないでいる。
 呼吸と同じように息を吸う時みたいに吸えばいい。
 そう言ってもローは上手く吸うことが出来ず、最終的にはグラスからストローを抜いて直接飲み、そして盛大に吐き出した。
「ぶふーっ! ぅげほ…っ!! にゃ…、にゃんだこれ…。口のなか…、爆発した!」
「…ローさん………」
 ぼたぼたぼたぼた。
 顔からメロンソーダを滴らせたおれの声は低い。
「あ、ごめん。コラさん…」
 ローは慌てておれの隣に移動して、ぺろぺろと顔を舐めはじめた。
 毎度のことだから慣れたとはいえ、濡れた服を脱がせて胸や腹を舐めてきたローの肩を掴まえ、おれの身体から離してやる。
「んっ? なんで?」
 不満そうな様子のローがおれを見るが、仕方ねェだろ?
 これ以上先のことをしてしまうと、18歳未満お断りになっちまう。
「続きは夜にな。飯が冷めるから早く食っちまえよ」
 どちらの意味にも取れる据え膳。
 大人の事情で胃袋を満たす昼飯を選んだおれは、メロンソーダとにらめっこをしはじめたローにクスッと笑みを洩らした。



 早い昼飯は朝飯も兼ねていたので、夕飯までに腹が減るだろう。
 洗い物を済ませたおれは、食後の毛繕いをしているローを呼ぶ。
 体毛なんかないに等しいのに、猫の頃から日課である毛繕いを欠かさないローは、隙あらばおれを脱がせて舐めようとしてくるのだから、油断ならない。
 かといって舐めさせなければ寝ている間に好き勝手されているので、それはそれで困るのである。
 何がって、おれの息子が辛いのだ、察してくれ。
「買い物に行くぞ。それとも、留守番しておくか?」
「行くっ! おれコラさんと買い物、一緒に行く!」
 耳と尻尾をピンッと立てたローは、大慌てでタンスに向かう。
 ロー専用のタンスの中には大きなシャツが十数枚、オーバーオールにクラウン・パンツやキャスケットが数種類ある。
 尻尾の辺りが気持ち悪いから嫌だと言うローは、何がなんでもパンツを履かない。
 素肌にオーバーオールを履いてその上から大きなシャツを着たローが、キャスケットを被って猫耳を隠した。
「コラさん! 買い物っ!」
 それゆけシロクマ君というアニメの主人公であるベポの大きなリュックを背負ったローがキラキラと目を輝かせておれを見上げ、手を繋いでブンブンと上下する。
 その手を引いて玄関に向かい棚の鍵を手にすると、ローが鍵についているキーホルダーを見て首を傾げた。
「車で行くのか?」
 キーホルダーはペンギンとシャチが仲良くぶら下がっていて、これもローが大好きなそれゆけシロクマ君のキャラクターだ。
 車の鍵についているそれを見て、ローは買い物が散歩を兼ねないということに気づいたらしい。
「外は暑いからな。その代わりにローが好きなベポたちのグッズが売っているショッピングモールに連れていってやるぞ?」
「行く! コラさん、早くっ!」
 ローの中でそれゆけシロクマ君の力は大きい。
 ぐいぐいと手を引っ張って駐車場に向かうローに、おれは最近になって新発売された商品のことを思い出していた。
 都市グリーン化計画とかで数年前から植えられた街路樹は、夏祭りが近いということもあり提灯や飾りがつけられている。
 窓を開けて帽子を押さえながらそれらを眺めていたローはくんくんと鼻を鳴らしたあと、おれを振り返ってニッと笑った。
「コラさん、夏は浴衣えっちが萌えってテレビでやってた」
「ぶっ! お前っ、おれがいない間、一体どんなテレビ見てんだよっ!」
 運転中にそんな話をするんじゃない。
 思わず全開でアクセルを踏み込みそうになっただろ。
「なんか、ニュースみたいなの?」
 ニュースでそんなこと言う訳ないだろ、おバカさん。
 おれは心でツッコミ、大きく息を吐き出して平常心を保つ努力をする。
「おれ浴衣着てみたい」
「浴衣なー…」
 そうなると下駄か雪駄も揃えなきゃダメだな、なーんて考えていたら、ローから再び爆弾投下。
「おれ、浴衣着てコラさんとセックス」
「しませんっ!」
「えーっ!」
 何度も言うが今回は全年齢対象。
 今回のコラさんはにゃんこなローを襲って性犯罪者になりたくありません。
 ぶーぶーと文句を言って拗ねるローを無視して駐車場に車を停め、目当ての店へと足を運ぶ。
 何度か来ているローも慣れたもので、おれからはぐれて迷子にならないように、しっかりと手を握って身を寄せていた。
 人間の姿のローは見た目はまだ少年に見える域だし、おれはおれで30代なものだから、端から見たらおれたちがどういう関係に見えるのか気になるところだ。
 流石に親子ではないだろうから、年の離れた兄弟辺りが妥当な線か。
 新発売のベポのバスタオルを見つけて目を輝かせるローに、同じく新発売のお風呂セットを一緒にレジに持っていったおれはこう思った。
 白地の布に目と鼻と口を描いただけのバスタオルで、何とお値段五千円!
 次からは無地のバスタオルにおれが目と鼻と口を描いてやろう、と。



 夕飯と数日分の食材を買い込んで帰宅後、風呂を沸かしたおれはローを呼ぶ。
「やーっ! お風呂いやー!」
 帰宅後すぐに素っ裸になったローが、ソファに置いてあるクッションを抱きしめてプルプルと首を横に振って嫌がる。
 だがローの抵抗など毎度のことなので、おれには効かない。
 それに今日はバカ高いアイテムもある。
 真っ白な洗面器の真ん中に目と鼻と口だけを描いたやつ千五百円と、熊の顔の形をしたもこもこの白いスポンジに目と鼻と口だけを描いたやつ千円と、泡風呂の元が入っている白いボトルに目と鼻と口だけを描いたやつ二千五百円、締めて五千円のベポアイテムをローに見せてやった。
「ロー、ベポが一緒にお風呂入りたいって言ってるぞ?」
「う…にゃ…っ…」
 ローの猫耳と尻尾がぺしょりと垂れる。
「お風呂から上がったら、ベポのバスタオルが身体拭いてくれるって言ってる」
「う…う…にぅーっ…」
 抱きしめていたクッションをソファに戻したローがとぼとぼとおれの元に歩いてくる。
 良く出来ましたと額にキスをひとつ落としたおれは、ローと一緒に風呂に入って泡風呂の元を入れてやった。
「ふわ…、ふわー…。コラさんっ! ふわふわっ!」
 泡立たせる為に何度も湯の中に空気を送りながら掻き混ぜてやると、もこもことした泡が浴槽から溢れそうなくらいまで盛り上がりを見せた。
「すげーだろ…って、食いもんじゃねェから食うな!」
 舌を出して泡に顔を埋めようとしたローの額を慌てて押し返してそれを阻止する。
 スポンジを渡してやれば自分から進んで身体を洗うローに、暫くは楽に風呂が入れるとおれは喜んだ。
 既に買い換えられていたベポのシャンプーハットを使って頭も洗ってやり、のぼせ気味になったローを先に風呂から上がらせて新しいバスタオルで身体を拭いてやる。
「ふふ…、ベポ…」
 財布は痛かったが、ローが喜んでくれているので、これはこれで良しとしよう。
 回転率の早いグッズにおれはお仕置きするように洗面器の顔にデコピンを喰らわせて風呂から出る。
 ローが使い終わったバスタオルで身体を拭いてから着替えてリビングに戻ると、カーテンにじゃれついていたローが手に何かを持っておれの傍にやって来た。
「コラさん。なんか、でっかい虫がいた」
 ローの手に掴まれたソレ。
「ご…っ…、ゴキ…」
 まだ生きているらしいそいつは、ローの指の隙間から長い触角を上下左右に振っている。
「ご…ごき? なに?」
「うおわああぁっ!! 窓からポイしなさいっ!」
 掴まえたソレをおれに見せようとしてきたローに叫ぶおれ。
 おれの尋常じゃない慌て方に驚いたローは、窓を開けてソレを投げた。
 飛ぶ力を失っていたらしいそいつはそのままマンションの下まで落ちたらしく、通行人の叫び声が聞こえたがそんなことは気にしてられん。
 下からも叫び声が聞こえてきたことに、ローは何事かとビックリしている。
「コラさん?」
「ロー…、もう一回風呂に入るぞ」
「えー! やーだーっ!」
「ダメだ。ばっちぃ。消毒するから、徹底的に洗い直しだ」
 クスクスクス。
 低い声で笑うおれにローがビクリと身体を震わせた。
「やーーーっ!」
 逃げようと暴れるローだが、逃がすはずなんかねェだろ?
 ローを担ぎ上げたおれは笑いながら風呂場に向かう。
 一時間以上かけておれに身体を洗われたローが、風呂嫌いに拍車がかかったのは言うまでもない。





END

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