コラさんとねこのロー シリーズ

□ねこのロシーとねこのロー
1ページ/1ページ

 うちの子凄いって思っちまうんだよな。
 何が凄いって、猫だったローやロシーが人間になったってのも凄いんだが、そうじゃねェ。
 ロシーに至っては家事が出来る子で、正直、おれはかなり助かっていたりする。
 あれは嫌だこれは嫌だと文句を言わねェし、服も着るし風呂も入る。
 おれが仕事に行っている間に掃除や洗濯の他、ローの飯も作って食わせてくれているので、おれは仕事から帰ったらのんびりする時間が増えた訳だ。
「ロシー。お前、猫だったのに人間になってすぐに家事が出来るって、すげェよな」
 日頃の感謝を込めて、今日は特上寿司を帰りに買ってきた。
 ローは目を輝かせてロシーよりも先にパクパクと美味そうに食っているが、ロシーはおれやローが先に食わねェと自分も食おうとしない。
 主従関係を弁えているというか、遠慮しているというか、家族なんだから気にすんなって言っても、これは性格だからお前こそ気にすんなって言われた。
「前の飼い主が、掃除や洗濯をするにしろ料理をするにしろ『ロシーちゃぁん、見てまちゅかー? これはこうすると美味しいご飯が作れるんでちゅよー。よく見てまちゅねー、ロシーちゃんは賢い子でちゅねー』って感じでまさに猫なで声で毎日色んなことを教えてきたんだが。ああ、思い出すだけでも腹が立つ! おれはあんな幼児言葉で話す奴、飼い主とは認めねェ」
 だから覚えたと言ったロシーは、わなわなと震えながら、持っているフォークを握りしめている。
 流石に箸はまだ慣れないらしく、別に用意した味噌汁を飲む為にフォークを持たせたんだが、あんまり強く握りしめたら折れそうだ。
「お前の元飼い主、仕事は真面目でよく働いて信頼もされてた奴なんだがなァ…」
 人は見かけによらないもんだ。
 おれでも猫だったローに対して、幼児言葉で話しかけたことはない。
「ロシーちゃぁん。賢い子でちゅから、その鮭の寿司、おれにくれ…イデッ!! うわああぁんっ! ロシー殴ったあぁーっ!!」
「うん。今のはお前が悪いぞ」
 火に油注いでどうすんだよ、おバカさんめ。
 バカな子ほど可愛いっていうが、ロシーが家事をやってくれて助かる存在なら、ローは毎日騒がしいながらも和むことをやってくれるので、癒しの存在ってところか。
 この三人で暮らしはじめて三ヶ月ほど、もう以前からずっと一緒に暮らしていた家族のような気がして、今では誰か一人が欠けてもならない存在だ。
 おれの服を着ているロシーにこれからも宜しく頼むなと言って頭を撫でてやると、ローがおれの頭も撫でてくれと言って胸に頭突きをかましてくる。
 相変わらず素っ裸のローの頭をわしゃわしゃと撫でてやったおれは、幸せだなと思いながら寿司を食った。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「おれ、お手伝いする。おれもコラさんに助かるって褒められたい」
 コラソンを二人で見送ったあと、いつものように洗濯をしようとしたら、ローがおれの着ているシャツをちょんちょんと引っ張ってくる。
 仕草がいちいち可愛らしくて食っちまおうかと思ったが、ローの願いも叶えてやりたい。
「んじゃあ、昨日使ったタオルとバスタオル、コラソンが着てたパジャマを持ってきてくれ」
「おうっ! お手伝いがんばる!」
 二人で協力してシーツも交換して、洗濯機を見続けて目を回しているローを休ませたあと、ベランダに出て洗い終わった洗濯物を干す。
 ローも干すと言って聞かなかったが、全裸のままでベランダに出す訳にはいかない。
「おい、ロー。服着たら、あとで散歩に連れて行ってやるぞ」
「えっ、本当かっ!? おれ散歩行きたい」
 昼飯後に窓や床を拭いて貰っているローに伝えたおれは、冷蔵庫の中身が少なかったことに気づいていた。 コラソンはたまに抜けているからな。
 多分、今日の帰りに食材を買ってから帰ってくるなんてことはしない。
 通販の荷受けをして、代引きとやらのお金も払ったことが何度かあるおれは、コラソンからお金の使い方を教わっていたし、万が一の時の為におれ専用の財布も持たされている。
 買い物はコラソンが休みの日にローと一緒に行ってるから、大体の地理も解るし今日の夕飯くらいの買い物なら出来ると思う。
 着替え終わったローと同じようにおれも猫耳と尻尾を隠して、コラソンがおれの財布の中に入れてくれていた合鍵で鍵を閉めて散歩と買い物に出かけた。
「おれ、コラさんがいない時に外に出んの、人間になってからは初めてだ」
「楽しいか?」
「うん。楽しい!」
 たまに行く公園では、花見の準備をしているみたいで、提灯の飾りつけがされている最中だった。
 出店でしゅわしゅわしている綺麗なジュースが売られていたから、買って飲んでみたらローと二人で盛大に噴きだした。
 口の中や舌がヒリヒリして痛かったから、人に見つからない場所でローと舌を舐め合ってキスをする。
「よくこんなもの飲むな、人間って…」
「コラさん、上に泡が乗ったやつ毎日飲んでるぞ」
 ああ、あのビールとかいうやつか。
 口の中や舌を爆発させて何が楽しいのか、おれにはよく解らん。
「今日は何が食いたい? 難しいのは無理だぞ」
「んーとなー。鮭のスパゲッティ! クリームかかってるやつ」
「クリーム…出来るかな…」
 ローの手を引いて向かった近所のスーパーは、きのこフェアがやっていて、おれはパスタに入れるしめじもカゴに入れていく。
「ロシー。おれ、ツナ缶も食いたい」
「あー…。じゃあ、ツナコーンサラダでも作るか」
 カートを引いて売り場を回るおれに、ローがカゴの中に好き勝手に欲しいものを入れていくから、その度におれはピシリとローの手を叩いて商品を棚に戻す。
 拗ねたようにおれを見るローだが、ローじゃなかったら手を引っ掻いてるところだぞ。
 おやつ代わりに煮干しだけ買わせてもらって、公園で少しだけ休憩してから帰った。
 ローが背負っていたシロクマ君のリュックの中から買ってきた食材を出して、夕飯の準備に取りかかる。
「おれ…、お手伝い…」
「ロー、お前すげー眠いだろ。昼寝してこいよ。あとで起こしてやるから」
 服だけは脱ぐことを忘れないローは、手伝いたいと言いながらも、ベランダに干していたお気に入りのバスタオルを取るついでに全ての洗濯物を取り込んで、洗濯物に埋もれながらバスタオルを抱きしめて寝てしまった。
「裸で出るなって言ったのに…」
 でもまあ、最後まで頑張って洗濯物を取り込んだローに、おれはオヤスミと言ってキスを落として夕飯を作りはじめた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「ただいまー…って、なんか美味そうな匂いだな」
「お帰り。鮭としめじのクリームパスタ? ローが食いたいって言ったから作った。あと、買い物行くのに、あの財布の中身を使わせて貰った」
 冷蔵庫の中身が少なかったから、とロシーに言われて、おれは買い物して帰ってこようと思っていたことを思い出した。
「すまねェ、ありがとう。よく買い物に行けたな」
「それくらい出来る。あと、お前に褒めて貰いたくてローも頑張って掃除や洗濯手伝ったから、あとで褒めてやってくれ」
 リビングでは、洗い終わったであろう洗濯物に埋もれて、バスタオルを抱きしめながら眠っているローがいる。
「ロシー…。お前、本当にいい子だな」
 わしゃわしゃとロシーの頭を撫でてやると、やめろと言っておれから離れていく。
 だが、頬が赤く染まっているところを見る限りじゃ、恥ずかしがって逃げたことくらい解る。
 おれはローの傍に行き、幸せそうに眠るローの頬を撫でる。
 この寝顔を見ているだけでも疲れが飛ぶのだから、おれの顔が自然と笑顔になるのは当たり前のことで。
「ロー…、ただいま…」
「ん…、う…。こらさん? お帰りー。おれ…、今日いっぱいお手伝いしたんだ…」
 寝起きのローは、ふにゃんと蕩けた顔でおれを見て、幸せそうに笑う。
「うん。ありがとうな。偉いぞ、ロー」
「えへへ…。おれ、えらい…」
 抱きつくローを抱きしめ返し、傍で見ていたロシーも一緒に抱きしめて、おれは最高の笑顔でこう言った。
「お前ら二人共、最高に愛してるぜ!」







END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ