コラさんとねこのロー シリーズ

□コラさんとねこのローとドフィも一緒
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「おれ、チョコ入れるっ!」
「ダメだ!」
 テーブルの上には五段重ねの重箱が並べられていて、重箱の中には色んなおかずが敷き詰められている。
 その内のひとつに、おにぎりを詰めている訳だが、おれとドフィが鮭や昆布の具を入れて握っていたら、ローが冷蔵庫の中からチョコレートを出して、笑顔でやって来たって訳だ。
「えー…。じゃあ、イチゴジャム入れる?」
「入れねェよ…」
 んなもん食ったら吐きそうだ。
「それよりも、ロー。早く着替えてこねェと、お前は留守番だぞ?」
「やーーーっ!! おれ、着替えるっ!」
 ドフィの一言で、ローが慌てて去っていく。
 おれはローが戻ってくる前に急いでおにぎりを作り終え、着替え終わったローが戻ってくると同時に、重箱の蓋をサッと閉めた。
「コラさんっ、ドフィ! ピクニック!!」
 今日は文句もない晴天で、昨日の晩に泊まりに来たドフィがピクニックに連れて行ってやると言った時から、ローのテンションは高いままだ。
 猫耳がすっぽりと隠れるキャスケットを深く被ったローが、おれとドフィを早く早くと玄関まで引っ張っていく。
 ローがいなかったら、ドフィと出かけることなどなかっただろう。
 弁当と飲み物、お菓子などを持ったおれは、鍵をかけて駐車場まで向かう。
「なァ、ドフィ…。ピクニックって、どこまで行ったらピクニックに着くんだ?」
 うん、ローはやっぱり何か勘違いをしているな。
 ドフィの運転するバンの後部座席に座っているローが、運転席に身を乗りだしていたから、おれはローの首根っこを掴んでローを座席に連れ戻した。
 改造されているドフィのバンは、後部座席は長いソファになっていて、目の前にはテーブルが設置されてある。
 冷蔵庫も簡易ベッドもあるバンの中は、キャンピングカーそのものと言ってもいいくらいだ。
 いつも乗っている車で泊まりに来たのではないから、ドフィは思いつきではなく、はじめからローをピクニックに連れていく予定だったのだろう。
「フッフ。そうだな…。三時間くらい車で移動した森の近くに着いたら、ピクニックになるんじゃねェか?」
 三時間も移動するとか、一体どこまで行く気なんだよ。
 ピクニックって遠い場所だとはしゃぐローに、おれはローをおとなしく座らせておく為に、持ってきたお菓子と絵本をテーブルに置いてやる。
「コラさん、ハチミツミルクもっ! おれ、ハチミツミルク飲みたい!」
「牛乳や蜂蜜なんか…」
「あるぞ。牛乳は冷蔵庫で、蜂蜜は棚にあるだろ」
 あるのかよ!
 まあ、ピクニックを計画していたのなら、移動中にローが何を欲しがるのかも全て考えて用意したんだろう。
 蜂蜜ミルクを作ったおれは、ローにコップを渡して持ってきた飲み物を冷蔵庫に入れた。
「ドフィは何か飲むか?」
 飲み物以外にもデザートまで入っていて、至れり尽くせりだ。
 ホテルの冷蔵庫でも、こういくまい。
「ああ。緑茶くれ」
「ほいよ」
 アルコール系がないのは残念だが、飲める人間が運転手の場合、運転手の前で飲むのも申し訳ない。
 おれはドフィにペットボトルの緑茶を渡し、絵本を選んでいるローを見た。
「ひゃっ!? おばけっ!! 嫌いっ!」
「あれ、持ってきちまったか…」
 ローが小さく叫んだ絵本は、昔から多くの人に親しまれている『ねないこだれだ』という絵本で、表紙に大きなオバケが描かれている。
 ローはこのオバケがどうにも怖いらしく、絵を見るだけで逃げる始末だ。
 何度も捨てようとするローだが、おれがコッソリと本棚に戻す為、本棚から絵本を探して『ねないこだれだ』を見つけた時は、悲鳴を上げながら泣きそうになっている。
 その様子を見て笑うおれは、ローが夜更かしをしている時は、オバケが来るぞと言って寝かしつけていたりする。
「いい子にしてたらオバケはこねェから、テーブルの下に隠れてねェで出てこいよ」
 ローが怖がっている絵本を鞄に戻して、隠れているローを引っ張った。
「コラさん…。おばけ…怖い…」
「こんな明るい間から、オバケなんか出てこねェよ…」
 蜂蜜ミルクを飲ませてローを落ち着かせ、おれは絵本をパラパラと開く。
 それゆけシロクマ君は絵本にもなっていて、今回持ってきたのはシロクマ君が仲間のシャチやペンギンと一緒に、海の中を冒険する話だった。
 この絵本を初めて見たローは、暫くの間は毎日のように海に行きたいって言ってたな。
「ドフィ…、三時間ってまだか?」
 絵本を読み終わる度にローがドフィに聞く。
「もうそろそろ着くぞ。準備しておけよ」
 持ってきた絵本を三度、ローが読み切った頃に、目的地に到着したらしい車はゆっくりと止まった。
「わあ、ピクニックだ!」
 ドフィに扉を開けてもらったローが、車から飛び出して駆け回る。
 野原には色んな雑草や花が咲いていて、近くにはキャベツ畑やヒマワリ畑もあるようだ。
 森の近くに停めた車から簡易テーブルと椅子を出したドフィは、はしゃぎ回るローを見て満足そうに笑っている。
 おれも弁当などを出して、テーブルの上に置いてローを見る。
 飛び跳ねたり転がってはしゃぐローは、ひとしきりはしゃいだあとで、おれとドフィの元に駆けてきた。
「ここっ、おれとコラさんとドフィ以外、誰もいないっ! すごいっ!! 服脱いだらダメか?」
「ダメ」
 満面の笑顔を向けて言ってきても、ダメなものはダメ。
 でもまあ、帽子くらいならいいと言ったおれに、ローは帽子を取って渡してきた。
「ドフィ! ピクニック、連れてきてくれてありがとう!」
「フフッ。どういたしまして」
 飛びつくように抱きついたローを、ドフィは子供をあやすようにポンポンとローの頭と耳を撫でている。
 平和な風景だと思いながら、おれはその場でごろんと横になった。
「コラさん、寝るのか?」
 ローがおれを覗き込んで影を作る。
「いや? ローも寝転がってみろよ。すげェ綺麗な空が見えるぞ」
「んに? 空、おれも見る!」
 おれと同じように隣に寝たローが、遮るものが何もない空を見て大きく深呼吸した。
「雲、いっぱいだな。綿菓子みたい。あれは、コラさんの綿菓子。あっちはドフィの綿菓子。おれのは、あのでっかいやつ!」
 腕を伸ばして、ひとつひとつ雲を指差すローを間に挟むように寝たドフィが、面白そうに笑う。
「お前、一番小さいのに一番大きいやつを食うつもりか?」
 都会の空気とは違う、緑と土の匂いが混じった空気は、素直に美味しいと思えた。
 ゴロゴロと転がって遊ぶローがお腹空いたと言い、朝から作った弁当を三人で食べる。
「んまーいっ! でも、チョコ入ってたら、もっとんまかったのにな…」
「フフフ…、それは残念だ」
 ドフィは笑うが、そんなことを言ってローが本気にしたらどうしてくれる。
 チョコやジャムの入ったおにぎりとか、絶対に食いたくねェと思う。
 誰よりも沢山の弁当を食べたローが、もうお腹いっぱいと言ってまた遊びはじめる。
「コラさん。あっち行ってくる!」
「あんまり遠くに行くと迷子になるから、なるべく近くで遊んでいろよ?」
「うん!」
 車の後ろでちょこまかしていたローが、森に向かって走っていく姿が見えた。
 森に入って行ったと思えばおれたちの元に戻ってきて、拾って来たらしいドングリや木苺をテーブルに並べている。
 五度ほどローが往復し終わった時、寝転がるおれの目の前にローの手が差しだされた。
「コラさん! ねずみ捕まえた!」
 何かを包むように重ねられたローの手が薄く開くと、隙間から小さな生き物が顔を見せる。
「そいつ…、ハムスターじゃねェのか」
「ハム…? 食えんのか?」
「ダメ…。可哀相だから、何でも食おうとしないでくれ…」
 既に飼っている金魚ですら、大きくなったら食べたいと言うのだから、ローには食べる動物と、普通なら食べない動物を、もっとちゃんと教えてやらなければならない。
 ドフィにもハムスターを見せに行ったローは、頑張ったなと褒められていた。
 ああ、そういやローは元々猫な訳だし、狩りをするのも習性なのだから、獲物を獲ってきた時は褒めてやるのがいいかもしれない。
「コラさん。おれ、ハム飼いたい」
「…ダメ………。元の場所に返してきなさい」
「コラさん、ダメダメばっか嫌だ。おれ、ハム飼う! アカとクロとコメと一緒に飼いたい!」
 いやいやいや、水槽の中にハムスター入れたら死んじゃうだろっ。
 ローはオーバーオールの胸ポケットにハムスターを入れて、おれから取られないようにボタンを留める。
「まあ、ハムスターの一匹くらい増えても構わねェだろ? ローも遊び相手が欲しいだろうし」
 ドフィがポケットに入れたら可哀相だから、せめて段ボールに入れてやれと言い、ローに段ボールを渡してハムスターを移動させていた。
 ローが捕まえてきたハムスターは多分、ジャンガリアンハムスターだろう。
 段ボールに入れられたハムスターは、キョロキョロとしたあとで、覗き込んだおれたち三人を見て慌てて走り回っている。
「逃がしてやったらどうだ?」
「やー。おれ、飼う! 一緒に遊ぶんだ」
「………くれぐれも食ってくれるなよ…」
 テーブルに置いてあったドングリや木苺も段ボールに入れたローは、早く帰ろうと言って車に戻っていった。
「フッ…。忙しいやつだ」
 見ていて飽きないと言ってドフィが笑うもんだから、ローが楽しんでいればそれでいいかとおれも笑い、後片づけをして車に乗り込む。
 扉を閉める際に何か小さな影が見えたような気がしたが、ローもドフィも気づいた様子がなかったので、きっと目の錯覚か何かだったのだろう。
 車の中で、ローはハムスターばかり見ていた。
 お菓子をあげたいと言うローに、ナッツがあったから渡してやると、ローは段ボールの中にパラパラとナッツを放り込んだ。
 ハムスターは隅の方でおとなしくしていたが、近くに転がってきたナッツをせっせと詰め込みはじめる。
「ハムー、よく噛んで食べなさい。ほっぺパンパンだぞ!」
「頬袋に貯め込んでんだよ。だから、突いてやるなって…」
 驚かせたら可哀相だろうと言って、ローを段ボールから離すと、案の定、頬袋って何だと聞いてきた。
 話を聞いていたドフィが頬袋の説明をしてやれば、きょとんとしたローが自分の口の中に指を突っ込んでいる。
「おれも頬袋欲しい」
「無茶言うなよ…」
 マンションに戻る前にペットショップに行ったおれたちは、ハムスターの為に小屋から食料、おやつまでを色々と買った。
「うわぁ…、ハムが増えた!」
「なにっ…!? まさか、子供産んだとか?」
 車に戻ってすぐに段ボールを覗き込んだローが驚いた声を上げて、その内容を聞いておれも驚きの声を上げる。
 ハムスターが子供を産んだら、オスメス分けて飼わねェと爆発的に増えちまう。
 恐る恐る段ボールを覗いてみれば、ハムスターをギュッと抱きしめているリスがいた。
「は…? 何でリス…?」
 ハムスターもハムスターでリスをギュッとしているし、喧嘩をする様子もなければ、離れる様子もない。
「このハム、しっぽ大きいな」
「コイツはハムスターじゃなくリスだ。シマリスと言ってリスの中でもよく飼われているやつだな」
「いやいやいやいや、そんな説明いらねェし! 何でリスがいるんだよ…」
 ドフィがローに説明してやってるが、おれは何でさっきまでいなかったリスがいるかを知りたい。
 ってか、もしかして、ピクニックしてた場所から車に忍び込んでついてきたのか?
 だったら、おれが目の錯覚で片づけたモノがリスだったとしても、何ら不思議がない。
「コラさん。おれ、ハムとリス飼う」
「えー………」
 今から戻るにしても、また三時間近い道のりを戻ることになってしまうし、そうすると帰ってくるのは夜遅くになってしまう。
 どう見てもリスとハムスターは仲良しみたいだし、ローが段ボールに手を入れたら、リスがハムスターを守るように抱きしめてローの手から隠している。
「食べたいとか言うんじゃねェぞ…」
 幸いにも買ってきた小屋は、リスでもハムスターでも飼える広くて大きいものをドフィが選んだので、あと二、三匹増えても広々と感じるはずだ。
 部屋にリスとハムスターを運んだローが、ドフィに小屋を作ってもらっている。
 その間に荷物の片づけをしたおれは、小屋の中に入っても抱き合ったままのリスとハムスターを見て、このまま飼っても大丈夫なのかと心配になった。
「コラさん。リスとハム、ご飯食べない…」
 隅で抱き合ったまま、動かないリスとハムスター。
 まあ、じっと観察されていても怖いだろうし、慣れるまでそっとしておいてやれとローに伝え、おれたちも買っていた夕飯を食べた。
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