コラさんとねこのロー シリーズ

□コラさんとねこのローのおまつりじけんぼ
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「じんぐーべー、じんぐーべー♪」
 窓に張りついて機嫌よく歌うローは、尻尾をリズムに合わせて揺らしている。
 ローは相変わらず素っ裸で、窓に張りついて寒くないのかと思うものの、二重構造の窓はほんの少しだけ冷たさを和らげてくれている、と信じたい。
 ローが猫から猫耳や尻尾がついた人間になって、初めての冬であり、初めてのクリスマス。
「キラキラいっぱい、綺麗」
 にぱっと笑ったローは、日が暮れてから既に一時間以上窓に張りついて、窓から見える外の景色を楽しんでいた。
「あうう……、お腹冷たくなってきた」
「当たり前だ……。ほら、飯も出来たし食うぞ」
 ドフィとひと悶着があってから数ヶ月、先ほどメールでクリスマスツリーを送ったから受け取れと連絡があった。
「お尻も冷たい。あ、先におれトイレ!」
 今日は今日で、長年水が出なくて壊れていたウォシュレットを受け取って交換していたのだから、同時に届いていればおれが交換作業をしている間に、暇だ暇だと騒いでいたローにツリーの飾りつけをさせておとなしくして貰えたのに。
などと無粋なことを考えてしまうおれは、トイレから聞こえた叫び声に慌てて駆けつける。
「キャーーーッ!! コラさんっ、お化けっ! トイレにお化け出たッ! 怖いぃ……」
 おれが駆けつけると同時にトイレから飛びだしたローが、股間をビショビショに濡らした状態でおれにしがみつく。
 ぎゅうっとしがみつくのは構わねェが、おれのズボンを濡らしてんのは、一体何の水分なんだろうって泣きたくなる。
「お化けなんかいねェだろ? どうしたんだよ。なんかあったのか?」
 えぐえぐと涙目でおれの腹に顔を埋めるローを見れば、トイレを指差していた。
 ローが指差しているのは、どう見てもいつも通りの便器だ。
 何も変わったところなんかない。
「おれがトイレしてたら、お化けがピーッて言って、おれのお尻ビチョビチョに濡らしたーっ! 怖いぃ……」
 お化けがピーッて言って尻を濡らすとのローの訴えに、思わずおれはクスクスと笑って、ゴメンと言いながらローの頭を撫でてやる。
 ローにちゃんと説明してなかったおれが悪い。
 とはいえ、興味本位でいつもと違うボタンを押したローには、勝手に触ると怖いことが起こるって教えるいいチャンスかもと思ってしまう。
「コラさんッ! お化け退治して! じゃなきゃおれ、砂にするから、コラさん砂買ってくれ」
 そんなことされたら困る。
 今ですらローは座ってでしかトイレが出来ないってのに、砂の上で座ってされたら、何処にナニが飛ぶか解らねェ。
「これはウォシュレットっていって、お尻を洗ってくれる、まあ、ロボットみたいなもんだ」
「ロボット? お化けじゃない?」
「ああ、ロボットだ」
 機械と言ったところでローには通じそうもないし、これが一番解りやすい言葉だろう。
「トイレ、コラさんがロボットに変身させたのか? すごい」
 怖がる顔から一転、ローの顔はキラキラと輝いて、おれを尊敬の眼差しで見つめていた。
 ローの純粋な眼差しは、荒んだ心を持つおれに痛い。
 ウォシュレットを利用して、今後あり得そうな悪さを未然に防ごうとしたおれは、ズボンの冷たさも忘れて濡れたローの尻を拭いてやった。





「おっきい木っ! コラさんっ、おっきい木!!」
 翌日の夜に、ドフィが言ってたツリーが届いたんだが、おれよりも大きなツリーは、ぶっちゃけ物凄く邪魔で、物凄い存在感だった。
「これはクリスマスツリーだ。ドフィがお前にって、送ってくれたんだ」
「ドフィが? うわあ、おれのクリスマスツリー? でも、ベポの家にあるのと違う木だな」
「飾りつけしたら、絵本のベポと似たようなツリーになるさ。何か飾りも他に送ってきたみたいだぞ?」
 葉っぱしかない木を見て不思議そうにしてたローは、おれが飾りつけ用の小物を見せてやると、嬉しそうに耳と尻尾をピンッと立てた。
「おれ、ツリーするっ! ベポと同じツリーにして、サンタさんに来てもらうっ!」
 ツリーの飾りは、ほぼお菓子で、クリスマスが終われば食べることも出来るものだ。
 連なったキャンディーでグルグルとツリーを巻き、透明の袋でラッピングされているクッキーやチョコなどの菓子を、ツリーにつけてぶら下げた。
 仕上げに、色とりどりの光を放つライトを巻いて点けてやると、おれの隣でローが歓声を上げた。
「うわあああぁっ、美味しそうなのに綺麗なツリー! ベポのツリーより凄いっ!! ドフィ、コラさん、ありがとっ!!」
 もうお菓子食べたいと言って涎を垂らしそうなローが、この場にいないドフィだけでなく、おれにまで礼を言ってくるんだから、ちょっとだけだぞと言ってローにツリーのお菓子を与えてしまう。
「サンタさん、おれにもプレゼントくれるかな?」
「いい子にしてたら、ローにもプレゼントをくれるぞ。ところで、ローはプレゼントに何が欲しいんだ?」
 新しい絵本か、ぬいぐるみなどのオモチャにしようと考えていたが、どうせならローが欲しがるものをあげた方が嬉しいだろう。
 おれの質問にうーんと唸って考える人の像になってしまったローは、何か思いついたようにポンッと手を叩いた。
「おれ、あたらしいびーびーびー。おべんきょして、コラさんといっぱいエッチするっ!」
「うん。サンタさんには、ローのプレゼントはいりませんって言っておくな」
「ふにゃーーーっ!!!」





 師匠も走る師走。
 そう言うだけあって、時計が合ってるのかって疑うくらいに時間の経過は早い。
 年末年始の休みは、会社自体が休みなので確保されているものの、流石にクリスマスもイヴからお休み。
 なーんて都合よくいくはずもない。
 連休の為に残業も多くなり、毎日遅く帰るおれと、毎日涙目でおれの帰りを待っているロー。
 日に日にツリーのお菓子も減っていき、クリスマスを迎えた今日。
あれほどいっぱい飾られていたお菓子は、残すところあとひとつになっていた。
 なんか、こんなドラマか映画があったよな。
 あの最後の一葉が落ちたら、きっと私は死んじまうとかどうとかって話。
 詳しい内容は知らねェが、今まさに最後のひとつがローに食われた。
「えううぅ……。お菓子、なくなった……」
「そりゃあ、食えばなくなるわな……」
「ドフィにちょうだいする? おれ、お菓子食べたい」
 何かを訴える目をしているローだが、そんなことで連絡していたら、毎日何かを欲しがりそうな気がする。
「しねェよ。それより、今日はなるべく早く帰ってくるからな。サンタさんからもプレゼント貰ってくるから、いい子で待ってろよ」
 プレゼントは既に買って職場のロッカーに隠してあるし、ケーキも予約済みだ。
 バタバタと忙しい朝なんかに、クリスマスプレゼントのイベントを出来る訳もなく、おれは帰ってからローを楽しませてやろうと考えていた。
「本当かっ!? うわぁ。おれ、いい子で待ってるっ!」
 元気な返事をしたローにいい子だと頭を撫でて、残業しない為にも、死ぬ気で仕事をやっつけたおれだった。
 流石に定時退社とまではいかないものの、30分ほどで仕事を終わらせたおれは、急いで帰宅の準備をする。
 プレゼントを持って、ケーキを受け取り、他にも予約していたチキンやシチューなど、ついでにお菓子も買ったおれは、大荷物を持ってタクシーで家路についた。
 鍵穴に鍵を差し込むと、人の気配がバタバタと近づいてきて、扉がドンッと大きな音を立てる。
 何があったのかと恐る恐る扉を開ければ、玄関にしゃがみ込んだローが頭を押さえながら涙目でおれを出迎えた。
「おかえり……コラさん……。おれ、頭ゴッツンして痛い」
 廊下にスリッパが飛んでいるところを見る限り、走ってきたローがスリッパに足を取られて、扉に向かって転んで頭をぶつけたと推測される。
「ただいま、ロー。痛いの痛いの飛んでいけー」
 昨日までは遅いおれの帰りを、泣きそうな顔で出迎えに来ていたローが、今日は違う意味で泣きそうになって出迎えてくれる。
 幸せだな、なーんて、ローの頭を撫でながら、大荷物を持って部屋に入った。
「じんぐーべー、じんぐーべー♪ くーりーすーますー♪」
「そんな歌だったか?」
「おうっ! クリスマスの歌だっ!」
 クリスマス用のチキンってだけで、料金割り増しになってるチキンは、持ち手だけが豪華に見える。
 ご機嫌に歌うローの目の前に、チキンとシチューとスパゲティー、それにチーズがたっぷり入ったサラダを並べて、一緒に頂きますと言って手を合わせた。
「んまっ、んまいっ。チキン好き」
 普段から何でも美味しそうに食べるローだが、今日は特にいい笑顔で美味しいと言う。
「美味いな。でも、食べ過ぎたらケーキ食べられなくなるぞ」
 ローの為に買ってきたケーキは、ブッシュドノエルだ。
 いつも小さな丸型や、三角や四角のケーキばかりだから、木に見えるケーキを見たローの反応が楽しみで、ホールケーキよりも高かったブッシュドノエルを、おれは奮発して買ったのだった。
「やー。おれ、ケーキも食う」
 チキンをおかわりしようとしていたローは、チキンを諦めてケーキを待っている。
 食べ終えた料理を片づけたおれは、冷蔵庫に入れていたケーキを出してやった。
「うわーっ! 木のケーキだーっ!! クリスマスのケーキって、木のケーキなんだ、すごい……」
 キラキラキラキラ──。
 ローの目は輝きっ放しだ。
「サンタさんと、馬? ケーキに人形ついてるの、すごいっ」
「馬じゃなくてトナカイな。それも食えるんだぜ」
「コイツ、食えんの? クリスマス、すごい……」
 ローはもう凄いを連発していて、何が凄いのか解らなくなっていそうだ。
「食うか?」
「食うっ!」
 あーんと口を大きく開けたローに、指でサンタを摘んだおれは、ローの口の中にサンタを入れてやる。
「ンッ、あっまーい! んまーいっ! すごーいっ!」
 ニッコリと笑って、ローは両方のほっぺたを撫でて、幸せそうな息を吐いていた。
 おれはトナカイも摘んで、ローの唇につけてやった。
 唇にトナカイを挟んだローが、おれを見てキスを求める。
「コラさんも一緒に食お?」
 可愛らしいお誘いをしてくるローにキスをして、トナカイを半分だけ齧った。
「うわっ、甘ッ!!」
「甘いの好き。おれ、ケーキも食いたい」
 砂糖菓子のトナカイは、甘い物大好きなローに丁度いいのだろう。
 口を開けるローに甘えんだなと笑ってやったおれは、今まで寂しい思いをさせていたので、ローが少しでも楽しいクリスマスを過ごせるようにケーキを食べさせてやった。



「コラさん……。おれ、クリスマス好き……。プレゼント好き。サンタさんも好きで、コラさんも大好き……」
 それゆけシロクマ君のDVDと、同じ絵本に同じ枕カバー。
 枕カバーがプレゼントなのは、今使っているローの枕カバーがあまりにもボロボロだからだ。
 寝ている間や、無意識のうちに噛まれているローの枕カバーをベポに変えたら、ベポを噛むのが可哀相ってことになって、少しは噛み癖も治らないかな、なんて、まあこれはおれの願いなんだけど。
 だってローは、枕だけならまだしも、おれの肩や胸にも容赦なく噛みついてくるし。
「すっごく幸せ。このままコラさんとエッチしたら、おれもっと幸せ」
 エッチしたいからしようと誘うローを断ることも出来ず、明日は寝不足で辛いんだろうなと思いながら、おれはクリスマスの夜を楽しんだのだった。
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