未来日記
□第1話
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今日も目覚ましの音で目が覚める。
昨日の夜から充電してある携帯は、学校が終わるまでは耐え抜いてくれるだろう。
パジャマを脱ぎ、家の洗剤の香りが漂う黒と白を基調とした服装に着替えた。
自身の部屋を出て、階段を降りていくと母親のつくる絶品の卵焼きの匂いが眠気を吹き飛ばしてくれる。
静かに席に付き、「いただきます」と言い終えると同時に母も席に付き同じく手を合わせ「いただきます」と言い、二人で食べ進めていく。
ほんのりと甘く、柔らかい食感がたまらない、大好物である卵焼きはもうお皿の上にはなかった。
ご飯と味噌汁を食べ終えた後、母親にニカッと笑いかけ、
「いってきます!」
と元気に言い放ち、大切な暇つぶし道具である携帯電話を鞄に入れそれを肩にかけて家を出た。
優しく微笑んで「いってらっしゃい」と言った母親の顔を今日も胸に抱き、自身の通う桜見中学へと足を進めた。
教室に着いた名無しは、真っ直ぐ席に向かい席に着く。そしてパカッと携帯を開き、最近ハマっている日記を懸命に打ち込むのだ。
日記とは言えないその内容に名無し自身変態かっ!と思わずツッコみたくなるようなもので、何故か打つ自分にも正直ドン引きだ。
だが辞められない。人間観察をし、その観察した人物の情報を打ち込むというまさに変態といえる行為を名無しは行っていたのだ。
今日の観察する人物は、前の前にいる机に座って友達と話している女子生徒だ。
家の電話番号は、配られた紙に書かれていた。メールアドレスは運よく友達と話しているときにたまたま聞けたものを打ち込んだ。恐らく一文字は間違えている。
彼女が最近気になっていることは、なかなか彼氏が出来ないこと。ふむふむ。
今日の服は○○○っていうブランド。明日は横にいる友達とお出かけ。
「……完璧に変態だ」
はあ……と溜息を吐いた。
あれからしばらく彼女を観察し、色々と情報を得た。下らないものばかりでもあるがこれが友達のいない名無しの唯一の中学の過ごし方であった。
いよいよ下校の時刻。チャイムが鳴り、火山先生が口を開く。
「最近は物騒だから、気を付けて帰るように、以上」
「日直」
「きりーつ、」
帰りの挨拶が終わり、皆ゾロゾロと帰っていく中、名無しはぼーっと窓の外を眺めた。
下校という素晴らしい時間だというのにやはり動くのは怠い。本日何度目かの溜息を吐いた。
「今日空いてんの?」
「使っていいって」
ふと聞こえてきた男子の会話に咄嗟に耳を傾ける。
「でも、人数足んねえじゃん」
「いいよ、誰でも面子揃えば、」
一人の男子がきょろきょろと見廻した先に、いつも名無しと同じく携帯をいじっている天野君がいた。
「おい、天野っ!お前さあ」
「辞めとけよ」
天野君を誘おうとした男子がもう一人の男子に止められる。理由はまあ単純に付き合いが悪いから、とかそんな感じだろう。
一瞬にして男子達の会話に興味を無くしたが、天野君に対してはちょっとだが興味を持った。
(明日のターゲットは天野君にしよう)
席は名無しより後ろだから、難しそうだ。そんなことを呑気に考えながら天野君と同じく席を立った。