共に

□15
1ページ/2ページ

夜が更け、りん達が眠ったのを確認してから名前は天生牙を持って殺生丸の元へと向かった。殺生丸はいつものように少し離れた木の根元に腰を下ろしている。



「…天生牙か」



殺生丸は名前の持つ天生牙へと視線を向けたが、すぐに逸らしてしまう。名前はそんな殺生丸の傍に膝をつき、そっと天生牙を差し出した。



『これは殺生丸様の刀です』



殺生丸は暫く無言でそれを見つめていたが、やがて手を伸ばし受け取った。そして静かに鞘に納めると次は名前へと視線を向ける。



「…夢幻の白夜」
『あっ…』



その呟かれた名を聞いて名前はぎくりとした。折り鶴に乗せてもらい、落ちないようにしっかりと白夜の着物まで握ったのだから匂いがついていて当然だ。心なしか殺生丸が怒っているように見える。



『…ごめんなさい』



名前はそろりと殺生丸から離れようとするが殺生丸の右腕がそれを阻止した。緩く腕を掴まれただけなのに動かない。名前は困ったように殺生丸を見上げた。



『せ…殺生丸様…?』



するとぐいっと腕を引っ張られ、名前の体は勢いよく殺生丸の毛皮へと突っ込んだ。



『ぶっ!!』



顔から突っ込んだ名前は慌てて殺生丸の鎧に手を付き、その顔を見上げる。殺生丸は相変わらず無表情で何を考えているのか名前には分からなかった。



「夜明けにはその匂いも消えるだろう」
「へっ…あ…はい」



ここで眠れという事だろうか。名前はきょとんと首を傾げたが、ふわふわの毛皮が心地よくて嬉しそうに頬をすり寄せる。殺生丸はそんな名前を横目で見たあと、再び遠くに目をやるのだった。



「あぁ…殺生丸様…名前に他の者の匂いがつくのがそんなに気に入りませぬか…」



そんな2人を邪見はまた遠くから目撃していたが、すぐに眠りへと落ちていった。





















まだ夜も明けきらない薄暗い頃、名前はふと目を覚ました。傍にある毛皮のあたたかさに無意識に頬が緩む。



(………毛皮?)



名前はハッとして顔を上げた。すぐそこに殺生丸の美しい顔がある。その目は伏せられているが、眠っているのかどうかは分からない。名前は小さく息をのんでその顔を見つめた。



(綺麗…)



名前は殺生丸の頬に手を伸ばし、そっと触れた。すると殺生丸の瞳が薄く開かれその視線が交わる。名前は思わず頬から手を離した。



『あ…』



殺生丸は名前の顔をじっと見据え、名前もまた視線を逸らせないでいた。



ドキドキと煩い胸を押さえ、名前はその名を呼ぼうとした。だが名前が口を開くより先に殺生丸の顔が寄せられて、2人の唇が触れ合う。



それはほんの一瞬だったが、名前の思考を止めるのには容易い事だった。名前は一度瞬きをした後、殺生丸を見つめる。



『せ…殺生丸、様…?』



微かに震えるその唇に殺生丸は再び口付けを落とす。それはまるで夢のような瞬間で、名前はその幸福感により心が満たされていた。



そのあと殺生丸は何か言う訳でもなく、元の体勢へ戻るとまたその目を伏せてしまった。名前は僅かに震える手をきゅっと握りしめ、先程と同じように毛皮へと頬を寄せる。



『殺生丸様…』



そのあたたかい毛皮を抱きしめるように名前は眠りに落ちるのだった。名前の寝息が小さく聞こえてくると、殺生丸がふいに目を開ける。夜空の月を見上げると、その月明かりが優しく殺生丸を照らしていた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ