Alice
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「お前、こんなとこで何してんの?」
「ベルを届けに来たんだよ。そしたら偶然アリスに会ったから、初めましての挨拶してたとこ」
『(あれ挨拶だったのか…)』
「…挨拶には見えなかったけど」
「ほら、俺の特技は人との距離を縮めることだから」
肩をすくめるレイを見て、ロキはくすくすと笑う。
『ロキ、は…レイのお友達?』
「ま、そんなとこ。猫の集会場で会って、そこからなんとなく話す関係」
「そういうこと。ってわけで改めて自己紹介させて」
ロキは抱いていた猫をレイに預けると、リナの手をそっと持ち上げた。
「俺の名前はロキ。通称チェシャ猫。職業は商人ってとこかな。ロキって呼んで?」
言い終えるとその唇がリナの手の甲に軽い音を立てて落とされる。
『!』
「以後お見知り置きを、アリス」
『よろしくね、ロキ』
「それじゃ、お届け物も完了したし俺は帰ろうかな」
「ありがとな」
「どういたしまして」
ロキは微笑むと、リナとレイの顔を交互に見てすっと目を細めた。
「…ねえ、レイ。かわいいアリスの為に最後にひとつだけ忠告しておいてあげるよ」
そしてレイの目を真っ直ぐ見て告げる。
「大切なものなら、簡単に目を離しちゃダメだよ?」
「…どういう意味だ」
「赤の軍がいつアリスに手を出してくるかわからないってこと」
リナの肩がびくりと揺れる。そんなリナを横目で見たレイは、再びロキへと視線を移した。
「噂だけど、黒の軍がなかなか傘下に入るって言わないせいで赤の軍は相当焦れてるらしい。このままだとまた実力行使で来るかもしれない。その場合…」
ロキは暗闇で一瞬にやりと口角を上げた。
「赤の軍にとって邪魔なのは…誰かわかるよね?」
『魔法を弾き飛ばせる私の力…?』
「いつだってアリスの傍には危険な香りが漂ってるってこと。戦いの場で真っ先に狙われるのはアリスだよ」
『ロキはどうしていろいろ知ってるの?』
「それは、秘密」
リナの質問は微笑みではぐらかされてしまった。
「ご忠告どーも。けど、その心配はいらねーよ。黒の軍が…俺が、こいつを守る。そう誓ったしな」
レイの言葉にこんな状況でもリナの心はドキドキしてしまう。
「そう、なら安心した。俺もかわいいアリスが悲しむ顔は見たくないからね」
ロキはにこりと笑ってリナを見た。
「アリス、もし何か困ったことがあったら俺を呼んで。これのお返しもしないといけないから」
ロキは手の甲に巻かれたハンカチにキスを落とすと、まるで暗闇に溶けるように姿を消した。