Alice
□01
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ここは19世紀のロンドン。
時計塔の針が夜の11時を指した頃、リナはまだ明るい街並みを歩いていた。
『すっかり遅くなっちゃったな』
リナはバイト先である洋菓子店から帰る途中だった。普段はもう少し早い時間に帰っているが、今日はお店で新商品の試作会があったのでこんな時間になってしまった。
すると後ろからバタバタと騒々しい足音が聞こえてきた。
「急がないと…!」
声が聞こえたのでリナが何気なく振り向く。するとすぐ間近に人の気配が。
「おっと!」
『わ!』
走ってきた男の人と肩がぶつかり、リナの体がぐらりと揺れる。倒れる、そう思ったリナはぎゅっと目を閉じた。だが男の人の腕がしっかりと腰を支えてくれたおかげで、なんとか怪我はせずに済んだ。
「これは失礼。お嬢さん、怪我はないかい?」
『は、はい…大丈夫です』
メガネをかけた白い髪の男性はにっこり微笑む。
「よかった。こんな愛らしい女性に怪我をさせたら僕は一生後悔するところだった」
『へ??』
普段言われ慣れない台詞を向けられ、リナはきょとんとしたままその男性を見上げた。
「ゆっくり話す時間がなくて残念だ。では良い夜を、レディ」
彼はウインクをひとつ残し、跳ねるような足取りで走り去って行った。
『何あの紳士…ドキッとした…』
真っ白な髪、瞳は薄桃色、跳ねるような足取り。彼はまるで白ウサギのようだとリナは思った。
そのままふと足元に視線を落とすと、キラリと光る何かが落ちていた。拾い上げてみるとそれは珍しい宝石がはめられた懐中時計だった。
『もしかしてあの人の…?』
ハッとしたリナは慌てて先程の男性が走り去った方へと、自分も走り出す。ピカピカに磨きあげられたそれはおそらく大事な物だろうとリナはすぐに思った。