Alice
□05
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それから数時間後、気づけば空は茜色に染まり、リナは深い森の中に迷い込んでいた。
『えぇ…なんで…?』
地図のとおりに進んだはずなのに、なぜ自分は森へと来ているのか。リナは大きなため息を零した。
見たこともない自生した魔法石、肌を覆う独特の空気。森の中は外より薄暗く、なんだか不気味だ。
『さっきの案内看板の矢印、信じるんじゃなかった…』
セントラル地区にあった看板の矢印は、釘が緩んで風に吹かれ、四方八方にくるくる回っていた。
『…戻ろう』
振り返ってみるものの、深い森の中では方向感覚が狂う。リナは日差しだけを頼りに歩くことにした。
『ここ…』
しばらく歩くと景色が変わり、拓かれた森の隙間から見える高い塔に目を奪われる。
『あれは…魔法の塔?』
前に本で見たものと同じそれは、空へ向かって高くそびえている。中には大きな魔法石が浮かんでいて、異様な光景に思える。リナは足を止めてそれをじっと見ていた。
そのとき、風が揺れ人の気配がした。
「…アリス?」
『!』
その声に誘われるように視線を向けると、そこには赤のキング、ランスロットがいた。リナの背筋がひやりと凍る。
『ランスロット様…』
茜色の中でもわかる金色の髪。そして肌に突き刺さるような圧倒的な存在感に、リナは身動きひとつできずにいた。
「…こんな場所で何をしている」
『…』
「言え」
ゆっくり近づくランスロットの低い声に、びくりと肩を震わせる。
『ブランさんの家に行こうとして…道に迷ってしまって…』
「ブラン…白うさぎか。随分と検討違いの場所まで来たものだな」
リナに向けられる眼差しは、ひどく冷たいものだった。
「良いか、ここは入らずの森。クレイドルの住人で近づく者はいない」
『入らずの森…?』
「命が惜しければこの場所には二度と近づくな。今すぐに立ち去れ」
『っ…はい』
リナは震える指先をぎゅっと握り、小さく頷いた。そのとき少し離れた場所から複数の足音が聞こえてくる。
ランスロットの瞳に鋭さが宿った。