Alice

□06
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目を開けると、そこには倒れている兵士達の姿があった。何が起こったのか理解できていないままだが、リナは慌てて近くの兵士に駆け寄る。



『…っ、大丈夫?』



すると遠くから狂気じみた笑い声が聞こえてきた。リナは反射的に顔を上げる。



「大丈夫ですよアリス、殺してはいませんから」
『誰…?』



眉を寄せ、辺りを見渡す。



「もっとも…あなたがおとなしくしなければ、本当に殺してしまいますが」



その瞬間、リナの目の前を影が覆い、首の後ろに鈍い衝撃が走った。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



その頃、レイ達はセントラル地区へと辿り着いていた。鼻を掠める硝煙の匂い、損壊した建物の数々、そして怪我を負った人達…。



黒の軍の馬が一斉に足を止める。



「想像はしていたがここまでとは…」



シリウスの低い声が小さく響いた。すると向こう側からランスロット率いる赤の軍が、馬に乗り進行してくる姿が見えた。



赤の軍の馬は黒の軍より少し離れた場所に止まる。



「へえ…このタイミングで来るなんて随分と悪趣味だな」



フェンリルが呟くと、両軍のキングの視線が静かな熱を持ってぶつかる。馬を降りたレイがランスロットに一歩近づく。



「赤のキング、我が軍はこの件に関して潔白を誓う。黒き翼にかけて」



レイはまっすぐランスロットを見据えて告げる。ランスロットも同じようにレイをまっすぐと見据えた。



「黒のキングよ、我が軍も同じだ。この様な愚かな行為をしろと命じた覚えもない。潔白を誓う。深紅の血統のもとに」



2人のキングの言葉に、両軍に張り詰めていた緊張の糸が僅かに緩む。



「けど、それならこの爆破事件を仕掛けた奴は誰なんだよ」



フェンリルは負傷した街の人達を悔しそうに見つめながら呟いた。



みんなが顔を見合わせ、重い空気が流れる。だが今はそれぞれに、怪我をした者の手当てへと集中することにした。



「キング…!」



慌ただしい中、風に乗って小さく声が届く。レイが振り向くと、馬に乗った黒の兵士が向かってくる姿が見えた。



レイの前で馬を止めた兵士の体がぐらりと傾く。



「おい!」



抱きとめたレイが、兵士をそっと地面に下ろす。兵士は悔しさが滲む表情でレイを見上げる。



「キング…すみません…」
「どうした?ゆっくりでいい、話せ」
「リナさんが…」



リナの名前を聞き、レイに緊張が走る。



「リナがどうした」
「何者かに…攫われました…」
「!!」



兵士の目には涙が浮かんでいた。リナと一緒にいながら守ることができず、悔しい思いをしたのだろう。



「すみません…キングに、頼むと言われていたのに…」
「謝るな、お前だってやられてんじゃねぇか。襲った奴の特徴、わかる範囲で教えてくれ」
「…複数の、足音が聞こえました。それと…武器は銃。馬に乗り、入らずの森の方角へと走っていきました」
「…入らずの森」
「それしか…わかりません」
「上出来、ありがとな」



レイは黒の兵士の体をそっと地面に横にすると、馬に飛び乗った。そうしてフェンリルの呼び止める声も聞かず、入らずの森へと駆け出していく。
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