Alice

□08
1ページ/10ページ

『さっきのレイの声…嘘ついてるみたいだった。それに、どうしてフェンリルに最初で最後の頼みだなんて言ったの?』



ひとつの違和感をきっかけに、まるで波紋のように不安が広がっていく。リナの胸が不安に飲み込まれそうになる。



「リナ」



フェンリルが力強くリナの肩を掴み、リナはハッと顔を上げる。



「リナ、お前はどうしたい?」
『私、は…』



空を見上げると、空には月が昇り始めていた。



「リナの気持ちを聞かせろ」



その言葉に、リナはフェンリルをまっすぐに見つめる。



『私、レイのこと追いかけたい』
「……」
『レイの傍にいたい』



フェンリルは一度ゆっくりと瞬きをする。



「今日を逃せば、お前が次に帰れるのはまた30日後だ。それに…」



肩を掴む力が少しだけ強くなる。



「今日を境に赤の軍との戦いが加速していったら、いくらお前が魔法を弾き返せても…命を落とすかもしれねーんだぞ」
『…わかってる』



ここは決して平和な世界ではない。



『でもそれはフェンリルもレイも、みんな同じだよ。月の向こう側に行けば、ここにいるみんなの無事すらわからなくなる…』



リナはフェンリルに頭を下げた。



『お願いフェンリル、無理なこと言ってるってわかってる。レイが1人で戦おうとしてることだって、何の確証もない』
「……」
『でも、今行かないと……今レイの傍にいないと、私はずっとずっと後悔する』



少しの沈黙が辺りを包んだ。



「…できるわけ、ねーだろ」



フェンリルの冷たい声にリナが顔を上げた瞬間。



「なーんて言うと思ったか?」



フェンリルがにやりと笑う。



「俺は、お前の意思に従うぜ」
『フェンリル…』



リナの顔がほっとしたように和らぐ。



「それと、リナの言葉信じてやる。全部、全部信じてやる。女の勘は当たるって言うしな?」
『ん…ありがとう』
「それに…俺もあいつの傍に行かなきゃいけねえ気がすんだよ」



フェンリルの表情が一瞬だけ険しくなる。



「よし、とりあえずここを出るか」
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ