Alice
□09
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満月の夜から数日後。
魔法の塔は両軍の監視下の元、本当の公共機関として動き始めた。
500年もの間戦ってきた両軍がすぐに共存することはできないけれど、きっと手を繋ぐ日は訪れるとレイは笑って言っていた。
そしてリナは黒の兵舎に身を置きながら、穏やかに過ごしている。
だが兵舎に響いたのはセスとフェンリルの大きな声だった。
「元の世界に帰る!?」
テーブルの上の食器が揺れるほどの大声に、リナは苦笑した。
『う…うん…』
「そんなっ…ようやく物語はハッピーエンド、あとは幸せに向かってまっしぐら!って感じなのにあんまりよ!」
『あのね…』
「おいおい、俺はそんな結末望んでないぜ?」
『あの、だから…』
「どうしてそんなこと言うのよアリスちゃん!」
リナが説明しようにも2人の会話はヒートアップするばかりだ。
するとレイがため息をついて口を開く。
「…お前らうるさい。騒ぐな、喚くな、リナの話を聞け、キング命令だ」
レイが一喝するとその場が静まり返った。やっと説明ができると思い、リナはふわりと微笑んだ。
『私、元の世界からいきなりクレイドルに来たでしょ?だから向こうで私を心配してる人がいると思うの』
「心配…?」
小さく呟いたルカに、笑って頷く。
『だって行方不明みたいなものでしょ』
「た…確かに!」
セスとフェンリルが納得したように声を上げた。
『だから一度帰って、ちゃんとしてくる。この世界でずっと生きてくために』
そう伝えると、みんなの顔にやっと笑顔が浮かぶ。
「そういうことなら了承しないわけにはいかないな」
シリウスも笑って頷いている。リナはレイと顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
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そして、空に欠けることのない月が浮かぶ夜。
リナは自室で元の世界に戻るための準備をしていた。それでも、この世界から持っていく物はほとんどない。
すると、扉がノックされる。返事をするとレイが部屋へと入ってきた。
「準備できた?」
『ん、完璧』
にこりと笑ったリナの顔を、レイが少し眉を寄せて覗き込んだ。
「…なんか楽しそう」
『へへ、向こうの世界から持って帰ってくるみんなのお土産考えてたの!レイは何がいい?』
笑顔で聞くと、レイはリナをベッドへと座らせた。リナはきょとんと首を傾げる。