オリジナル
□褒めてくれない?
1ページ/1ページ
「おめでとう!」すれ違う人たちは皆そう声をかけてくる。
私がついに念願の漢字検定一級に合格したからだ。
そのひとつひとつに「ありがとうございます!」と返事をして通りすぎる。
最高な1日
のはずなのに。
まだ1つ、
足りないものがある。
それはそう、あいつからの言葉だ。
褒めて欲しいって思われると癪だから直接報告は出来なかったけど、周りの人はみんな知ってるのに、あいつだけ知らないとかありえない。
もちろん会ってない訳じゃない。
何回も廊下で見かけたし、目があったりもした。
「全然嬉しくないや…」つい本音が口から溢れると悔しくて地団駄を踏んだ。
「ねぇ」
突然かけられた、聞き覚えのある、冷たくて内側から響くような声に、思わず背筋を震わせる。
振り返ってその声の主を確認するとそれは紛れもなく私がずっと、ずっと、ずっと待っていたあいつだった。
背が高いあいつの目を見上げると、いつものように表情の読めない顔をしていた。
「何してたの」
あいつの口から発せられる言葉に正直とまどった。
いや、おめでとうじゃないんかーい…
「なにもしてません」ムッとして言い返す。
するとあいつはまたこう言った。
「何が全然嬉しくないの」
聞かれていたのか、思わずドキッとする。
「別に…」必死に感情を隠してあいつに言う。
「そう」
あいつはそういって去ろうとして、数歩進んで振り返ると言った、
「おめでとう」
時間が止まった。
思わぬことに私がフリーズしているとあいつは少しだけ笑って尋ねた。
「どうかした?」
不覚にも、少しだけキュンとした。
「…今日貰ったおめでとう、の中で一番嬉しかったです。ありがとうございました。」
必死に絞り出した言葉。
あいつの無表情が驚きに歪むのを見て、ちょっとだけ勝ったような気がした。
結局、好きなんだよな…。