夢(short 3)

□もらいものとか間違いとか
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「もー。最悪。あそこの警護、すっごく寒いんだけど。」
今この時期に一番受けたくない山寺のご本尊の夜間警護任務にあたってしまった私は、待機所で愚痴っていた。

「心頭滅却すれば火もまた涼し。鍛え方が足りんのだ。」

「うるさいなぁ。あんたはただ鈍感なだけでしょ。」
偉そうなことを言うから、そう言い返すと、ガイは不満そうに「そもそも任務に文句をつけるな」とか「これも修行の一環だ」とかごちゃごちゃ言ってたけど、その場にいたほぼ全員が無視をしていた。

「明日は寒いらしいわよ。」
お茶をすすりながらそう言った紅を見ると、

「寒波が来てるんですって。」
とさらっと言われた。

「最悪…。」
寒波が見えるわけでもないのに、ふと視線を窓の方に向ける。その途中で視界に入ったカカシは、いつものように愛読書を広げていた。



「ありえないでしょ、この寒さ。」
一か月前ならもう少し明るくなっていただろう空はまだ真っ暗だった。本尊警護の任務終え、あまりの寒さに全速力で里に戻ったのにも関わらず(歩いてたら凍りそうだ)、私の指先は冷え切っていた。その指の先をこすり合わせながら待機所に向かう。まだ誰もいないんだから仮眠をとってから報告書を出したって一緒だろうに、と思うものの、なぜかいつもこの任務は「報告書を出して終了」となっていたからだ。

「待機所も冷え切ってるんだろうな…。」
それとも誰か寝ないで待機だった奴がいたりしなかっただろうか、なんて思いながら歩いていると、前方の自動販売機に人影が見えた。
こんな寒い日の早朝に自販機で買い物なんて、これから任務なのだろうか。ご苦労なことだ。なんて思いながら目を凝らしてみると、よく知った後ろ姿。カカシだ。

「おはよー。早いね。」
後ろからそう声をかけると、珍しく私が近づいていたことに気が付いてなかったのか、カカシの肩がビクッと動いた。
ただ、何をしているのかなかなかこちらを振り返らない。そのままカカシの背後に来るが、カカシはまだ前を向いたままだった。なんだか挙動不審だとは思ったものの、そこでカカシの向こうに見える自販機は私の好きなコーヒーが置いてあるものだと気が付いた。

「カカシはこれから任務?私は今戻ったんだよね。冷え切っちゃったから、私もなんか買おうかな。」
そう言って、さらに自販機に近づこうとした瞬間だった。

「え?」
カカシがずいっと何かを差し出した。缶コーヒーだ。しかも、私の好きなやつ。

「あ。自分で買うからいいよ。」
そう言いながらポーチの財布に手を伸ばそうとすると、

「間違えて買ったから、あげる。」
とカカシが言った。

「え?」
驚いてカカシを見るが、カカシはなぜか私と目を合わせない。間違えて買ったのがそんなに恥ずかしいのだろうか?

「え?あ、じゃ、カカシの分、買ってあげるよ。どれがいいの?」
だたでもらうのも申し訳なくて、そう言ったものの、カカシは無言だ。

「カカシ?」
不思議に思ってカカシの顔を覗き込むと、カカシは大きく息を吐いた。

「あげるよ。」

「え?あ、うん。でも…。カカシ?」
カカシは私に缶コーヒーを渡すと、そのまま歩いて行ってしまった。
冷え切った手に買ったばかりの缶コーヒーは熱すぎて、私は無理やり服の袖を伸ばして手袋代わりにした。


カカシにもらった缶コーヒーを飲みながら待機所で報告書を書く。だが、なんだかさっきのカカシが気になる。

「はぁ。終わった。」
書き終えた報告書をもう一度読み直して問題ないことを確認すると、私はソファの背もたれに体重をかけて天井を仰いだ。

「あの後、任務に行ったのかな…。」
体を起こして缶コーヒーに手を伸ばすと、残っていた最後の一口を飲み干した。
何となく、手にした缶コーヒーを眺める。
ふと、以前カカシと交わした会話を思い出す。

『これ、ここ以外でホットの見たことないんだよねー。』

『ん?このコーヒー?』

『そう。あんまりメジャーじゃないメーカーのだからか、薬局とかでしか売ってるのみたことないんだよね。だから大体常温か冷蔵庫に入ってるの。時々探してみるんだけど、この自販機以外で見たことないんだ。』

『ふーん。何、これが好きなの?』

『うん。甘すぎなくてちょうどいいんだよねー。他の自販機でもあればいいのに。』
一か月くらい前だろうか?ちょうど寒くなってきて、自販機でホットが出だしたころだ。
私はすでに冷えてしまった空き缶をテーブルに置くと、ポーチに手を突っ込んだ。中から例のフルーツ飴が入った袋を引っ張り出すと、半分以上食べてしまったそれを眺める。
そう言えば、この飴が好きなんだと紅に話をしたとき、横にカカシがいなかったか?
私があの居酒屋の抹茶アイスが好きなことはいつも一緒に飲みにいくやつらは知っている。もちろん、カカシもだ。面と向かってそのことを話したことはないけど。
そして、今日のこの任務のことを話した時、横にカカシもいた。この任務は上忍には定期的に回ってくるから、夜勤の場合何時に終わるのかはみんな知っている。
ただ、今日の私のように全速力で帰ってくる奴はめったにいない。もしかして、私は早く帰ってきすぎたのだろうか。
つまり、カカシは私が待機所に帰ってきた時にあの缶コーヒーを渡すつもりだったのではないか?

「なんで?」
自分以外誰もいない待機所で一人首をかしげる。
だが、自ら出した答えに、私は顔が熱くなるのを感じた。

「…まさか、ねぇ…。でも…。」
それから帰宅して仮眠をとることにしたが、どうもカカシのことが気になってなかなか眠れなかった。
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