Anniversary
□What did he forget?
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肩で息をしたヒソカがマチの部屋のインターホンを押した。
ドアが開き、呆れた顔のマチが顔を出した。
「ごめん…♠」
「謝る相手が違うよ」
眉間にしわを寄せたマチに、「そうだね♣」とヒソカは小さく笑った。
部屋に入ると、ナマエが写真と同じように寝ていた。
起こさないように背負って、バンジーガム【伸縮自在の愛】で固定する。
「あんまりいじめるようなら、引き取りに行くよ」
ヒソカを睨みつけたマチが言う。
「サブだけど、ナマエは旅団の一員だからね。
少しでも傷付けたら、返してもらう」
ウボォーギンやノブナガの交代人員であるナマエは強化系の誇る強烈な一撃で、侵入あるいは脱出の際に壁や床に穴を開けるのが役割だ。
だが、単純で表情がコロコロ変わるナマエはみんなを繋げる接着剤の役割も果たしている。
誰かと口ゲンカしてる時などは、みんなケタケタ笑いながら、その様子を見る。
よって、付き合った時のブーイングは半端ではなかった。
「わかってるよ♦
今回のことはちゃんと反省してる♠」
ヒソカは苦笑を漏らして、背中の温もりを見た。
「ならいいけどね」
マチはまだ許せないという気持ちを露わにしている。
しかし、マチの勘は告げていた。
ヒソカの気持ちは本物だと。
ナマエの事だけである。
ヒソカが息を切らして、飛んで来るのは。
「ともかく、後は任せるよ」
「ありがとう、マチ♣」
ニコリと笑みを返すと、「あんたに礼を言われると変な気分になるよ…」と、マチは複雑な顔をした。
マチと別れた後、ナマエを背負って歩いていると。
「………………った」
ナマエの声がヒソカの耳朶を打った。
「起きたのかい?」
問いかけてみるが、肩越しに見る顔は寝ている。
「どうせ、私がバカだったんですぅ」
気にせず歩いていると、またナマエの声が聞こえてた。
顔を窺(うかが)うが、起きているようには見えない。
どうやら、寝言のようだ。
「ヒソカに期待した私がバカだった…」
一瞬、足が止まる。
呆れているような、落胆しているような、声。
「ねえ、マチ聞いてる?
…………………言って、嘘……て。
どうせ、私のことなんて……」
背中でブツブツ言う声に、涙が混じる。
本当に寝ているのか疑うが、首は骨が抜かれたようにヒソカの肩にもたれかかっている。
そして、その息は寝息である。
「ナマエ、約束破ってごめん♦」
起きているようで、起きていないナマエにヒソカは返事をした。
すると、だらりと垂れていたナマエの両腕がヒソカの首に巻き付いた。
「どれだけ楽しみにしていたか、知らないくせに……」
「知ってるよ♠
ナマエは朝からテンション高かったもんね♣」
しかし、ヒソカの言葉はナマエに届いていないようだ。
首筋に冷たい滴が落ちて、つたう。
「少しでも長く一緒にいたいって思うのは、どうせ………だけ………。
ヒソカの薄情者…!」
ボタボタと涙が落ちてくる。
ナマエの腕に力がこもる。
"一緒にいたい"
その言葉と涙が語るナマエの一途な性格。
ヒソカが考えた系統別性格診断法に当てはまる強化系の典型的な性格。
ヒソカは知っている。
自分と一緒にいる時のナマエがどんな顔をしているかを。
団員たちに向ける笑顔とはまた別の笑顔を。
ひっそり帰った時に見た寂しげな顔を。
そして、自分が帰ってきたと知った時の顔を。
だから、ヒソカはナマエにこう言った。
「明日はずっと一緒にいるよ♥」
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