幻惑の蝶
□Episode2
4ページ/7ページ
バタリと音がして、男が倒れた。
その顔には、トランプとナイフが刺さっていた。
そこから、少し離れた所から、「はあ」とため息が聞こえる。
その主は、サトツだ。
手には、数枚のトランプとナイフを持っていた。
「クックックックックッ♦」
ヒソカの笑い声を合図に、男が連れていた人面猿がむくりと起き上がって、逃げ出した。
人面猿に向かい、トランプを投げつけるヒソカ。
しかし、人面猿を仕留めたのは、サブリナのナイフだった。
何が起こったのか、わからない受験者たちから、不安の声が次々と沸き立つ。
「そっちが本物の試験官だね♠」
ヒソカがサトツを指差して言う。
その後にサブリナが続ける。
「ハンター試験の試験官は、審査委員会から依頼されたハンターがタダで試験官をやることになっている。
仮にもプロハンター。
あの程度の攻撃を防げないはずないもん。
よって、そっちが本物の試験官」
指差しながらサブリナはあくびをした。
そして、ヒソカを見ると目が合った。
ヒソカはにこりと笑うが、サブリナはそっぽを向いた。
よりによって、アイツ、私と同じこと考えつきやがった。
あー、やだやだ。
サブリナは肩を落とした。
「…今回は許しますが、試験官への攻撃は反逆行為とみなして即失格です。
2人ともわかりましたね」
サトツが2人に注意を入れる。
「はいはい♣」
「りょー。でも、妥当な判断だと思うけど?」
ヒソカは素直に従ったが、サブリナは不満な様子だ。
「拒否権はないですよ、サブリナさん。
いや、むしろ、あなたの方が質が悪い。
あなたは私を知っているはずだ。
少なくとも、私はあなたを覚えています」
サトツは困った顔をしたが、サブリナは愉快そうに言った。
「ごめん、覚えてないわ」
その顔はどこか妖艶さを帯びていた。
サトツはやれやれと肩をすくめ、再び走り始めた。
受験者もそれに続く。
ヒソカは走り始めたサブリナに近づき訊ねた。
「ねえ、ボクのトランプ知らない?」
「知らなーい」
サブリナはふてぶてしく答えた。
「キミに向かって投げたんだけどなあ♠
本当に飛んで来てないかい?」
「知らないよ。風にでも吹かれたんじゃないの?」
サブリナはチラリとヒソカの方に視線を向け、その頬に赤い筋が入っているのを確認した。
「仮に、私がトランプをキャッチして、投げ返したとしても、それを避けれないヒソカが悪い。
私はそう思うけど?」
サブリナは意地悪くほくそ笑む。
それを見たヒソカは満足げに笑った。
「やっぱり、キミは強いねえ♥」
「I know.」
そう答えるとサブリナは、スピードを上げ、サトツのすぐ後ろについた。
ここなら、ヒソカも迂闊に手は出せない。
あとは後ろからの攻撃に注意するだけ。
サブリナはあくびを漏らす。
でも、攻撃がないと、つまんないんだよねえ。
受験者を引き連れて、サトツはヌメーレ湿原を進む。
辺りには霧が立ち込め始めた。
あとに残された人面猿の骸は、ヌメーレ湿原に生息する生物によって食い散らかされた。