幻惑の蝶

□Episode2
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バタリと音がして、男が倒れた。
その顔には、トランプとナイフが刺さっていた。
そこから、少し離れた所から、「はあ」とため息が聞こえる。
その主は、サトツだ。
手には、数枚のトランプとナイフを持っていた。

「クックックックックッ♦」

ヒソカの笑い声を合図に、男が連れていた人面猿がむくりと起き上がって、逃げ出した。
人面猿に向かい、トランプを投げつけるヒソカ。
しかし、人面猿を仕留めたのは、サブリナのナイフだった。
何が起こったのか、わからない受験者たちから、不安の声が次々と沸き立つ。

「そっちが本物の試験官だね♠」

ヒソカがサトツを指差して言う。
その後にサブリナが続ける。

「ハンター試験の試験官は、審査委員会から依頼されたハンターがタダで試験官をやることになっている。
仮にもプロハンター。
あの程度の攻撃を防げないはずないもん。
よって、そっちが本物の試験官」

指差しながらサブリナはあくびをした。
そして、ヒソカを見ると目が合った。
ヒソカはにこりと笑うが、サブリナはそっぽを向いた。

よりによって、アイツ、私と同じこと考えつきやがった。
あー、やだやだ。

サブリナは肩を落とした。

「…今回は許しますが、試験官への攻撃は反逆行為とみなして即失格です。
2人ともわかりましたね」

サトツが2人に注意を入れる。

「はいはい♣」

「りょー。でも、妥当な判断だと思うけど?」

ヒソカは素直に従ったが、サブリナは不満な様子だ。

「拒否権はないですよ、サブリナさん。
いや、むしろ、あなたの方が質が悪い。
あなたは私を知っているはずだ。
少なくとも、私はあなたを覚えています」

サトツは困った顔をしたが、サブリナは愉快そうに言った。

「ごめん、覚えてないわ」

その顔はどこか妖艶さを帯びていた。
サトツはやれやれと肩をすくめ、再び走り始めた。
受験者もそれに続く。

ヒソカは走り始めたサブリナに近づき訊ねた。

「ねえ、ボクのトランプ知らない?」

「知らなーい」

サブリナはふてぶてしく答えた。

「キミに向かって投げたんだけどなあ♠
本当に飛んで来てないかい?」

「知らないよ。風にでも吹かれたんじゃないの?」

サブリナはチラリとヒソカの方に視線を向け、その頬に赤い筋が入っているのを確認した。

「仮に、私がトランプをキャッチして、投げ返したとしても、それを避けれないヒソカが悪い。
私はそう思うけど?」

サブリナは意地悪くほくそ笑む。
それを見たヒソカは満足げに笑った。

「やっぱり、キミは強いねえ♥」

「I know.」

そう答えるとサブリナは、スピードを上げ、サトツのすぐ後ろについた。

ここなら、ヒソカも迂闊に手は出せない。
あとは後ろからの攻撃に注意するだけ。

サブリナはあくびを漏らす。

でも、攻撃がないと、つまんないんだよねえ。

受験者を引き連れて、サトツはヌメーレ湿原を進む。
辺りには霧が立ち込め始めた。

あとに残された人面猿の骸は、ヌメーレ湿原に生息する生物によって食い散らかされた。
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