Clapping

□Crimson Crimson Crimson
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体に着いた血を洗い流すように、どしゃ降りの雨が降る日だった。

雨宿りのために公園に立ち寄った。
屋根を見つけて入ろうとしたが、すでに女性と犬がそこで雨宿りをしている。
1人と1匹はグッショリと濡れて、真っ黒の空を見ていた。
女性は今しがた入ったようで肩で息をしている。
小さくため息を吐いたヒソカは絶をして屋根を支える少し太め柱に寄りかかった。
もちろん、血まみれの姿を見られないように女性の死角になる所に。
それなのに、

「雨、スゴいね…」

突然、話しかけらた。
ヒソカの絶を一般人が見抜けるはずもないので、青い果実ではとヒソカの心臓は高鳴る。
しかし、その期待はすぐに裏切られた。
そっと様子を伺うと、犬を拭きながら、その犬に笑いかけている。
犬は嫌がるどころか、尻尾を振って、女性の手を受け入れていた。

なんだ…♠ただの人か…♥

と残念に思いながら、そのままその女性と犬を観察する。

女性は犬の隣に腰を下ろした。
犬はそれに呼応するように、女性の顔を舐める。
女性は「やめてよ」と言いながらも、嬉しそうに笑い、犬を撫でた。

褒められていると思った犬のテンションはますます上がり、尻尾をブンブン振る。

「嬉しい?なら、これでどうだ!」

なんて、ぐちょぐちょの服を全く気にせず、ぐちょぐちょの犬とじゃれる。

ヒソカは本気で犬と遊ぶ人間を初めて見た気がする。
気付かれないように、やれやれとため息を吐くが、服装からして大学生に見えるその女性が無駄に楽しそうにするので、目が離せなくなっていた。
何がそんなに楽しいのだろうか?
何が楽しくて、そんな笑顔になれるのか?

いつも見てきた女の笑顔とは明らかに違う彼女の笑顔はどこかで見ていた。
いつどこで見たのかさえ忘れた。
きっと、それほど昔の記憶なのだろう。

誰かの気を引くための、誰かの機嫌を取るための笑顔ではない純真な笑顔。
今まで関係を持った女たちは自分にそんな笑顔を向けたことはなかった。
笑えば笑うほど、醜く滑稽(こっけい)な顔になるだけ。
せっかくの美しい顔も笑うと崩れる。
あまりにもブスなので、事が終わり次第深紅に染めるのが習慣だ。
女は笑えば豚になる。そう思っていた。

だからなのかもしれない。
彼女をナマエを欲しいと思ったのは。
普段はどんな人物なのか調べて、彼女の生活を知れば知るほど欲しくなった。
目まぐるしい学生生活に色はなく決して華やかではない。
愛想笑いも見たし、営業スマイルも見た。
そんな笑顔の中にも、ときどきあの笑顔がちゃんと現れる。

もちろん、他の女とも比較をしてみた。
比較しても、あの笑顔ほど不思議で屈託のない笑顔はなかった。
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