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□何を待っているのか、何を望んでいるのか
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今日もナマエはあの部屋にいる。
深夜、ボクはこっそり窓から中へ入った。

「ヒソカ?」

凛とした声が静まりかえった部屋に響く。

「…なんだ、もうバレたのか♠」

「こんな夜中に来るのは貴方ぐらいですから」

クスクスと女の笑う声がした。
ボクは彼女のいるベッドへと歩み寄って、その縁に腰を降ろした。

「こんな時間に起きているなんて、キミらしいけどね♣」

「その言葉、そのまま貴方に返します」

また口を綻(ほころ)ばせながら、ナマエは腕をこちらに伸ばして、ごそごそと動かした。

「何をしているんだい?」

ボクの問いかけにナマエは上半身を起こした。

「貴方を探しているのです」

眉を寄せて、苦笑するナマエは答えた。
手を動かしながら。

「ボクはここだよ、ナマエ♥」

その細い手を取って、ボクは言った。

「見たいものが見えないのは、やはり難儀です」

彼女は生まれながらの全盲だ。
ボクがナマエに出会ったのもそれがきっかけ。

「男の人の手はみんなこういう風なのでしょうか?」

見えない目を開いて、ナマエはボクの手の感触を楽しんでいる。

「一概にそうだとは言えないけど、たぶんみんなこんな感じだよ♦」

「不思議です。
同じ人間なのに、骨や筋肉の質はこんなに違う…」

ボクの腕を指でつついたり、押したりしてナマエは笑う。

「そう言えば、女性には喉仏がないんだよね♠」

ボクはそう言って、ナマエの手を自身の喉仏に導いた。

「おおおおっ!新鮮です!わっ!動いた!」

喉仏1つでこのはしゃぎよう。
ずっとこの部屋に閉じ込もっている、いや、閉じ込められているナマエは知らないことが多い。
ボクがここに来るのは、そんな彼女に外の世界を教えるため。

「お気に召していただけたかな?」

ボクが問うと、ナマエは満面の笑みで「はい!」と、頷いた。

「やっぱり、私、外に出てみたいです…」

先程の笑みが消え、どんよりと俯(うつむ)く。

「ダメダメ♣
また家出なんかしたら、余計に縛られるよ?」

「じゃあ、もっといろいろ教えて下さい。
でないと、外に出たい衝動を抑えられません」

「それじゃあ、あの時の喫茶店が今どうなっているのか話そうか…♦」

「はい!お願いします!」

ナマエは声を頼りにボクの方を向いて笑う。
その笑顔の屈託の無さは、ナマエが汚れていないからだと、ボクは思う。
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