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□不香の花
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盗まれてから数十日が経ち、ナマエはヒソカとの暮らしに大分慣れた。
しかし、ナマエは未だに新たな発見をしては、楽しそうにはしゃいでいる。
そんな光景はヒソカにとって安らぎであり、ナマエの役に立てていることが何より嬉しかった。
今まで奪うことしかできなかった自分が、誰かに何かを与える幸せに気付くとは、想定外だったが、これ以上嬉しい想定外はなかった。
「ナマエ♠」
「はい、何でしょう?」
名前を呼ぶと、声を頼りに走ってくる姿は危なっかしくて、愛しい。
こちらからも近付き、華奢な体を抱きとめる。
「ここの暮らしにもだいぶ慣れたし、どこか旅行にでも行かないかい?」
「ほんとにいいのですか!?」
遠慮してる言葉だが、顔は全然遠慮していない。
キラッキラッの笑顔を向けるナマエに、犬の耳と尻尾が見える自分は重症だとヒソカは思う。
「どこに行きたい?」
耳が見える頭をわしゃわしゃ撫でながら訊くと、
「雪!!雪に触りたいです!!
私の住んでた地域では降らなかったので!」
間を置くことなく、そう答えた。
尻尾をフリフリしながら、ナマエはヒソカにお願いした。
「仕方ないなあ♣
時期が時期だから、移動に少し時間がかかるけどいいかい?」
「全然♪ヒソカが隣にいるなら平気!」
きゅっとヒソカに抱きついて、ナマエはニコニコ笑う。
たまらないなあ、ホント♥
ナマエを抱き締め返して、その耳に囁く。
「じゃあ、すぐに手配するから♦」
バンジーガム【伸縮自在の愛】で引き寄せたスマホを操作する。
「あなたは一体全体何者ですか?」
ヒソカの手が動いたのに気付いて、ナマエは首を傾げた。
「キミに幸せを届ける"ただの"奇術師だよ♠」
『ただの』を強調させたヒソカの言い方に、ナマエはクスリと笑う。
「"ただの"奇術師?
盗賊で闘士、そして、時々暗殺者なのに?
ヒソカは嘘が下手くそです」
「キミにはなぜかバレちゃう♥」
その額に唇を落として、ヒソカは笑う。
そう、なぜかナマエにはバレてしまう。
初め、正体を訊かれた時も「ただの奇術師」と、嘘を吐いた。
だけど、「嘘はダメです」と、笑顔で言われた。
何度も何度も。
仕方なく本当のこと言った。
だが、普通は「人殺し」と言う方を信じない。
しかし、ナマエは「ようやく本当のことを言いましたね」と、笑顔を貫いた。
不思議過ぎて今でも覚えている。
ナマエ曰く、目が見えない分、勘が働くらしい。