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□蝶と暗殺者
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パドキア共和国の南東に天空闘技場と呼ばれる建物がある。
辺りはそこで行われる闘争(バトル)の見物客や参加者で賑わい、栄えている。
そんな人気の多い街中から離れた山脈地帯の"とある"レストラン。
ナマエはそこの2階に来ていた。

「シズル〜!おひさ〜!」

「うわ!ホントに黒髪になってるぅ!
二極化成功おめでと〜う!」

バグをする2人はそろって美女。
しかし、その正体は人の手によって造り出された生物兵器。
男女問わず人間を魅了するのは、彼女たちの特性であり、本人たちは嫌悪している。

「じゃあ、これでナマエもお酒に酔えるってわけね」

生物兵器であるナマエは、アルコールなどの有害物質はすぐに分解されてしまうので、酒に酔うことができない。
酔うふりはできるが…。
対して、シズルはナマエほどアルコール耐性が強くなく、人で言うほろ酔い程度には酔えるので、ワインやビールと言った酒関係は大好きだ。

「そーゆうこと!
だから、一番にここに来たんじゃな〜い!」

ニッコリ笑う2人をキッチンの向こう側からシズルの夫ファスコが微笑ましげに眺めている。
妻からの注文を待ちながら。

「ところで、今日は何食べる?」

ナマエに問いかけると同時に、椅子に腰かけるシズル。
ナマエも椅子に腰かけながら、答えた。

「シェフのオススメにする〜!」

「OK!ファスコ、聞こえてた?」

ナマエの声に頷いて、ファスコに声を投げると了承の意を示す優しい笑みが返ってきて、シズルもそれに準ずる笑みを返す。

「で、体の慣らしはどうするの?」

「ん〜、ゾルディック家にお世話になろうと思ってる」

今のナマエは、生物兵器として造り出される際に混ぜられたドラゴンのDNAの発現を抑え、より人間に近い状態となっている。
もし、何の訓練もなしに戦闘になったら、体の使い方がわからない分不利である。
それを解消すべく、今の体に慣れる必要がある。
そして、何より、ゾルディック家では。

「ゾルディック家なら毒や拷問に耐える術も教えてもらえるから、一石三鳥!
とか、思ってるんでしょ?」

ニヤリと笑ったシズルに「当たり!」と、ナマエもニヤリと笑う。

「それにしても、あそことは長い付き合いよね」

「大体50年ぐらい?
確か、ここにアルバムがあったと思うんだけど…」

音を鳴らして椅子を引き、ナマエは壁際に並べられた本棚へと向かった。
ここに住んではいるが、ここにある本についてはからっきしダメなシズルは、外を見ながら待つことにした。

しばらくして、ナマエは黒い革の大きなアルバムを持ってきて、机の上に広げた。

「これ!
私が初めて遭遇したゾルディック家の面々」

一番初めのページの左上。
そこに納められた写真を指差すナマエは何やら思い出し笑いをしている。

「ねえ、私まだ、あんたとゾルディック家の馴れ初め聞いてないんだけど」

「ククク、アハハ、なつかし〜!
あれ?話してなかったっけ?」

「聞いてない」

ブスッと頬を膨らませたシズルに、ナマエはクツクツとのどで笑いながら、「じゃあ、話す」と言った。





一方、パドキア共和国、ククルーマウンテン頂上ゾルディック家の屋敷では。

「イルミ、お前、一体どこからこんなもん掘り出したんじゃ?」

ゼノが眉間にしわを寄せ、埃を被った分厚い本を見て、イルミを見た。
ゼノの視線を受け、イルミは肩をすくめた。

「ん?そこの上からだよ」

ゼノの身長では届きそうもないクローゼットの上を指差す。

「そうか…。
にしても、ナマエのやつ、何もこんな所に置いていくことなかろう…」

「ナマエがどうしたの?」

普段は何かに興味を持つなどほとんどないが、ナマエのことになると別だ。
イルミは首を傾げて、ゼノを見た。

「これは、あやつとゾルディック家のアルバムじゃよ。
見るか?」

ニヤリと笑ったゼノに、掃除の手をとめてイルミは「もちろん見る」と頷いた。
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