Anniversary
□鬼の勝利
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ほとんど、夜に染まった夕方。
いつもより帰る時間は早いが、冬は日が短い。
闇夜と一緒に寒さがやって来るので、ヒソカは足早に帰り道を歩いた。
寒さに負けじと歩いていたせいか、思いの外(ほか)早く家に着いた。
「鬼は〜外!!」
「………♠」
玄関を開けた途端、妙なかけ声と豆がばらまかれて、ヒソカは固まってしまった。
「…!」
突然現れたヒソカにナマエも驚いた顔のまま固まる。
「………嫌がらせ?」
黒々とした笑みを浮かべるヒソカに、ナマエは慌てて首を振った。
「これは豆まきと言って、私の国の厄払いの儀式なんだよ!
今日、2月3日は節分だからね。
とにかく、おかえり」
ニコニコと楽しそうに笑うナマエにヒソカは肩をすくめた。
「ただいま♣」
そう言ってヒソカはナマエの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「うわっ、な、何!?」
いつもより乱暴な撫で方にナマエは思わず、首をすくめた。
「仕返し♥」
ニンマリ笑って、その手を止めると、ナマエに抱きつかれた。
何事かと思うヒソカに顔をしかめたナマエが言う。
「あ〜、やっぱり…。体まで冷えてる。
ほら、早く入って」
すうっと離れていく体をヒソカは、抱き締めた。
「ヒソカ?」
「こっちの方が温かい♦」
クスリと笑うと、ナマエも「そうだね〜♪」と笑って、ヒソカの背中に腕を回した。
その時。
グ〜
素っ頓狂な音が聞こえてきた。
顔を赤くして俯くナマエが消えそうな声で「ご飯食べよ?」と言った。
「これも"セツブン"に関係あるかい?」
目の前にある海苔に巻かれたご飯のような物をヒソカは凝視している。
「うん、それは恵方巻って言って、節分の日に食べる巻き寿司なんだ。
ちなみに食べる時は無言!
且つ、今年の縁起の良い方角を向いて食べる!
今年はえっ〜と…」
ナマエはテーブルの上にあったスマホに手を伸ばした。
「えっとね、今年は西南西!
だから…こっち!」
スマホから顔を上げて、ナマエは西南西を指す。
「変わった風習だね♠」
別段楽しくもないこの風習にヒソカは呆れモードだ。
「でしょ?ま、そう言うことでいただきます!」
そう宣言して、ナマエは恵方巻にかぶりついた。
いつもと違う無言の食事が終わると、ナマエはまた豆を撒き始めた。
今度は「福は内」と言って。
ヒソカは1人、トランプタワーを建てていた。
その隣に豆を撒き終わったのか、ナマエが座った。
「"セツブン"の儀式は終わったかい?」
作りかけのタワーを崩して、ヒソカは訊いた。
「ううん、あとは数え年の分だけ、豆を食べる」
そう答えたナマエの手からヒソカは豆の袋を取った。
「ヒソカも食べるの?
こういうの興味ないと思ってたんだけど」
嬉しそうな顔をして、ナマエが首を傾げた。
「うん、興味ないよ♠
でも、こうしたら楽しめる♥」
ヒソカはバンジーガム【伸縮自在の愛】でナマエを引き寄せると、豆を口移しで与えた。
「もしかして、あと25回もするつもり?」
真っ赤な顔をして、ナマエはヒソカに訊いた。
「もちろん♣
数え年の数だけ食べなきゃダメなんだろ?」
ニヤニヤと妖しい笑みを浮かべたヒソカは、また豆を口に含んだ。
こんな時、ナマエは思うのだ。
ヒソカには絶対勝てない…。