Clapping
□赤ずきん
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むかしむかし、あるところにナマエという女の子がいました。
ナマエは6歳になったばかり。
誕生日に買ってもらった赤いずきんが彼女のお気に入りです。
今日もそのずきんをかぶって、森へ遊びに行こうとしました。
すると、お母さんが、
「森へ行ってはいけません!
あそこには恐ろしい狼がいるのよ!」
「はーい」
と、返事をしましたが、ナマエは森へ遊びに行ってしまいました。
町から少し離れた森には、ナマエのおばあちゃんが住んでいました。
おばあちゃんはナマエに不思議なお話をしてくれたり、悩み事があると相談に乗ってくれたりします。
ナマエはそんなおばあちゃんが大好きです。
これまで何度も森へ遊びに行ってるナマエですが、実は1度も狼に会ったことがありません。
だから、彼女は楽しそうにニコニコしながら森へ遊びに行くのでした。
「おばあちゃん、今日も来たよ!」
「よく来たね」
おばあちゃんはニコニコして、ナマエを出迎えました。
「おばあちゃん、何をしてるの?
家に着く前からとっーてもいい匂いがしてるよ」
「お前の好きなキイチゴのジャムを作っていたんだよ」
そう言って、おばあちゃんはスプーンにジャムをすくい、「熱いから気をつけてお食べ」と、注意してからナマエにスプーンを渡しました。
それを口に入れたナマエの顔は、キラキラと輝きました。
「おいしー!!
おばあちゃんのジャム、だーいすきー!」
「そうかい、そうかい」
おばあちゃんは目を細めて、ナマエの頭を撫でました。
「ねえねえ、おばあちゃん。
今日はどんなお話をしてくれるの?」
ナマエはワクワクしながら、訊ねました。
「まあ、お座り」
おばあちゃんが椅子に座り、ナマエはおばあちゃんの膝に座りました。
「狼男って知ってるかい?」
「ううん、知らない」
ナマエは大きく頭を振りました。
「狼男は普段の姿は狼。
しかし、時折、人間の姿になる不思議な生き物さ」
「おばあちゃんは会ったことあるの?」
「もちろん!
とってもイケメンで、凛々しい青年だった」
おばあちゃんは頬を染めて、遠くを見ました。
「いけめん?」
ナマエはこてんと首をかしげて、おばあちゃんを見上げました。
「カッコいいってことだよ。
その狼男は森で怪我したあたしを担いで、町まで連れて行ってくれた。
もう、それからおばあちゃん、狼男のことが好きになっちゃってねえ。
森から出られなくなっちゃったんだよ」
「うーん、どうやったら、狼男さんに会えるのかな?」
ナマエは腕を組んで考えます。
おばあちゃんもまた、難しい顔をしました。
「あやつは気まぐれだからねえ。
あたしもあれっきり会えていないんだよ…」
「ああ、でも」と、おばあちゃんは何か思い出したようです。
「あやつは人を殺めておる…」
おばあちゃんがとても悲しそうな顔をしたので、ナマエも悲しそうな顔をして言いました。
「それはいけないことなんだよね?」
「そうだね…。
だから、狼男になってしまったのかもしれないね…。
でも、狼が人間を襲うのは、仕方のないことさ。
あたしらも今日、キイチゴを食べただろ?
狼にとって人間はキイチゴのようなモノ。
だから、恐がってはいけないよ、狼も狼男も」
「でも、私…少し恐い…」
ナマエはおばあちゃんにしがみつきました。
「大丈夫。
何も恐いことなんてないんだよ」
おばあちゃんは優しくナマエの頭を撫でました。
「うん…」
ナマエはおばあちゃんの話がこれっぽっちもわかりませんでした。
しかし、恐がってはいけない、そう思いました。
「さあ、ナマエや。
もう、おかえり。
日が暮れたら、帰れなくなるよ」
そう言って、おばあちゃんはナマエを膝から下ろしました。
「おばあちゃん…狼男は私を食べる?」
ナマエは不安な顔をして、おばあちゃんを見上げました。
「いいや、優しくしてくれるさ。
しかし、狼には気をつけるんだよ」
おばあちゃんはにこりと笑いました。
ナマエもつられてにこりと笑います。
「また、明日ね、おばあちゃん!」
「気をつけて帰るんだよ」
そう言って、おばあちゃんはナマエを送り出しました。