幻惑の蝶

□Episode1
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「ステーキ定食、食べたい。
じっくり弱火で焼いたのがいい」

ちょうど、店が混み始める時間。
寝ぼけた声で、"特別"な注文をされる。
その相手を見た店の主人は驚いた。

女?16、7ってところか?
なのに、ナビゲーターはなし…。
一体、何者だ?

感じた違和感はそれだけではない。

腰に届くような白髪。
陶器を思わせる白い肌。
片側に切り込みを入れた白のチャイナドレス。靴は白のハイヒール。
炎を灯した血のような紅の瞳。
首には黒のチョーカー。両手の中指には銀の指輪。左肩から斜めがけにした鞄。

こんな容姿の女なら世の中にたくさんいる。
とりわけ、美人でもない。
それなのに、何だこの感じは…。

魅せられたかのように主人は彼女を見る。
その時、彼女の瞳が揺れた。

「もしかして、売り切れ?」

小首を傾げた女に、主人は慌てた。

「い、いえ、そんなことはありません!
どうぞこちらへ」

何気ない日常の正午。
そこに現れたその存在に戸惑いながら、主人は彼女を奥に通した。

ここはハンター試験会場への入り口。
後ろの客人はあくびをしながら、付いてくる。
何を思ったのか、突然ポツリと呟く。

「お腹すいた…」

また、つまらなさそうにあくびを漏らす。
コツコツと床を鳴らしながら歩くその姿は、どこか寂しげだった。
廊下を進み、部屋の前まで案内して、「それでは」と、主人は踵(きびす)を返した。
女が重く無機質なドアを押した。
錆びたドアが音をたてて開く。





白が舞い降りた。誰もがそう錯覚した。
まるで、空間を切り抜いたかのような存在。
その場にいる全員が視線をドアへと向ける。

プレートナンバー44、ヒソカ。
彼とて例外ではなかった。
そして、すぐ、その違和感に気付いた。

白磁の肌と髪。細すぎる四肢。
白に浮かぶ2つの紅と1つの薄紅。

何の変哲もないただの女…♠
そう思うけど、気にはなる♣
なぜだろう、ねえ…♦

腕を組み、少し思案する。
そして、殺気を向けてみることにした。
ヒソカが殺気を発した瞬間、周囲の空気が凍る。

しかし、彼女はヒソカを一瞥(いちべつ)しただけだった。
怯えた様子は微塵もない。
しかも、殺気を向けられていながら、眠そうにあくびをして、目元を擦っている。

殺気を納めたヒソカはのどの奥で笑う。
周囲の緊張も解かれる。

面白いね、キミ♥いいモノを見つけたよ♠
まずは、自己紹介でもしようかな♣

クツクツと笑いながら、ヒソカは立ち上がった。
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