幻惑の蝶
□Episode3
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「…て、起きて。
サブリナ、起きて」
耳元で誰かの声が聞こえる。
その息が耳にかかってくすぐったい。
サブリナは手でそれを払おうとした。
しかし、その手を逆にとられてしまう。
そして、また、耳元で囁かれる。
あまりのくすぐったさにサブリナは起きざるを得なかった。
「わかった、起きるから!
耳元でしゃべるのやめて…くすぐったいよお…」
ふあと大きなあくびを漏らして、目を開けた。
時計は11時50分を指していた。
試験開始まで、あと10分か…。
トイレ行こ。
立ち上がろうとした。
しかし、背中の温もりにそれを止められる。
同時にイヤな予感が全身を巡る。
嘘!あり得ない!
私は木を背に寝たはず!!!
しかも、見張りまでつけたのに!!!
なのになんで…!!
サブリナはその答えをわかっていた。
わかっていたが振り返らずにはいられなかった。
そこにあったのは、顔にペイントをほどこしたあの顔だった。
だが、サブリナが予想していた顔と少し違う。
頬にあるはずの打撃痕がなかった。
「やあ♦キミは相変わらず鈍いね♠
いつになったら、気付いてくれるのかと心配になったよ♥」
ヒソカはサブリナを自分の足の間に収めて座っていた。
その腕はしっかりと前まで回されている。
ヒソカはにこりと笑う。
サブリナは大きなため息をついた。
「そんなにため息ついたら、幸せに逃げられちゃうよ♣」
ヒソカがわざとらしく耳元で囁く。
そのくすぐったさにサブリナは思わず、首をすくめる。
「そんなのとっくに逃げてるよ。
それから、耳元でしゃべるな」
「どうして?」
笑いながら、ヒソカはまた、耳元で囁く。
息が耳に限らず首筋にもかかって、体が反応する。
「さっき言った」
声が震えないようにするのが精一杯だった。
体が異様に熱い。その熱は顔にまで広がる。
その様子にヒソカは満足げに笑う。
そして、耳元から離して言う。
「キミはかわいいね♥
それにとても美味しそうだ♦」
そう言ったヒソカに、サブリナは至極真面目に言った。
「人間なんて食べても美味しくないと思うけど…?
むしろ、硬くて不味い…」
まるで、人肉の味を知っているかのように言って、サブリナは眉を寄せる。
「あっ!忘れてた!
私のかわいい見張りたちはどこ?」
「まさか、手は出してないよね」と、サブリナは続ける。
「キルアとゴンかい?
それなら、あそこだよ♣」
キルアとゴンは少し離れた所から、こちらの様子を見ていた。
サブリナが睨むと、謝る仕草をした。
彼女が2人に頼んであったのは、寝ている間の見張りだった。
まあ、大方ヒソカに脅されたんだろうな…。
仕方ないかあ…。
やれやれという肩をすくめ、苦笑をもらすと、2人はほっとしたようだ。
そして、サブリナはヒソカを振り返って言う。
「いい加減、離してくれる?」
「イヤだ♠
だって、サブリナはボクのモノだから♥」
その返答にサブリナは呆れることしかできなかった。
「じゃあ、女子トイレまでついてくる?」
呆れた声で返すと、ヒソカはしぶしぶサブリナを離した。
サブリナがトイレから帰ると、正午を知らせるベルが鳴った。
建物の中に、受験者がぞろぞろと入る。
その中の銀髪と黒髪にサブリナは近づいた。
「2人とも無事?」
2人はそれぞれ違う回答をする。
「無事だよ」
ゴンはサブリナを安心させようと笑顔を向ける。
「そっちはどうなんだよ?」
キルアは自分よりサブリナを心配した。
「ヒソカが鬱陶しい以外、異常なし」
苦笑しながら言うと、2人も同じ顔をした。
「みんなで何を話しているのかな?」
その声に驚いて、キルアとゴンは慌てて顔をそちらへ向けるが、サブリナは「ほらね」と、肩をすくめた。
「ヒソカが鬱陶しいことこの上なしって話」
突如現れたヒソカにサブリナは言う。
「ひどいなあ♦
ボクはサブリナの傍にいたいだけなのに♥」
のどの奥で笑いながら、ヒソカは冗談みたく言う。
そして、サブリナの腰に腕を回す。
「腕と首、切り落とされるならどっちがいい?」
サブリナが笑顔で問いかけた。
「つれないねえ♣」
ヒソカはしぶしぶその腕をどけた。