幻惑の蝶

□Episode5
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シャワーを浴び、バスローブを羽織った。
しかし、袖に腕を通さず、紐も結んでいない。
髪も乾かさず、ポタポタと水滴が落ちる。
取り敢えず、首にタオルをかけて、床が濡れるのを防ぐ。

部屋にはベットが1つとその横にサイドテーブル、さらに小さいながらも対面キッチンが備えられていた。
流し台には乱雑に調理器具が放り込まれ、オーブンからいい匂いが漏れている。
やかんとコップ、そして、スプーンを探す。
コップとスプーンは申し訳なさそうに置かれている後ろの食器棚に、やかんはコンロ下の収納にあった。
やかんに水を入れ、コンロにかける。

ベットの上に放り投げてあった鞄を手に取り、中から本とロイヤルミルクティーの袋を取り出した。
髪から水滴が落ちて、表紙につく。
サブリナは慌てて、バスローブの裾で拭った。

本は窓枠に置いて、ミルクティーの袋を持ってキッチンへ。
粉末にされたミルクティーを3杯すくってコップに入れる。
あとは水が沸くのを待つだけ。

再び窓に近づき、本を手に取る。
窓枠に腰を下ろす。
そして、向きを変えて足を窓枠内に納め、体を窓ガラスに預ける。
ヒンヤリとしたガラスが火照った体に心地いい。
本を開いて、数十ページ読んだところで、放送が流れる。

『三次試験の会場に着くのは朝の8時です。
それまで、各自、自由時間です。
では、ゆっくりとお過ごし下さい』

その『自由時間』ってのが一番まずいんだってば…。

やれやれとサブリナが肩をすくめた。

その放送が終わると、待ってましたとばかりに、やかんが音をたて、オーブンが焼き上がったことを知らせるアラームを奏でた。

「ナイスタイミング!」

栞を挟んで本を置き、窓枠から下りて、キッチンへと向かう。
火をとめ、コップにお湯を中程まで注ぎ、そのあとに冷えた牛乳を入れる。
これで温度が飲めるぐらいにまで下がる。
鍋つかみをはめて、オーブンから天板を取り出し、調理台の上に置く。
美味しそうに焼き上がったクッキーからいい匂いがさらに広がる。
食器棚から皿を取り出したが、すぐには移さず、少し冷めて固まるのを待つ。

その間にベット横のサイドテーブルを窓の近くへと運ぶ。
窓の外は景色は雲が海のようであり、砂漠のようであった。

キッチンへ戻り、クッキングシートごとクッキーを皿に移す。
右手にコップ、左手に皿を持って窓へと移動する。
両手の物をテーブルに置いて、先程のように窓枠に体を納め、読書を再開した。
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