幻惑の蝶
□Episode15
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「まったくもう…。
こんな古い地図まで出して、また昔話?」
真っ赤な顔でしかめっ面をして、地図とハリセンを片付けるサブリナに、シズルはニタニタとした顔を向ける。
「昔話、と〜、今話♡」
「あんたねえ…」
ウインクをするシズルに、サブリナは大きなため息を吐いて、ゴンの隣に座った。
と、同時にグデーっと突っ伏した。
黒髪が顔にかかり、月明かりが髪のツヤを引き立てる。
その様子にヒソカは加虐心を煽られる。
ゾクゾクと沸き上がる熱情。
しかし、そこに水をさすように別の思いがふと浮き上がった。
それは得体の知れない感情で、ヒソカの胸の内は疑問符で溢れかえっていく。
わからない。
どうすればいいのかわからない。
これが何を意味し、何をすれば解消されるのかわからない。
ただ、この感じをヒソカは知っていた。
そう、この感覚は…♠
三次試験の前に味わったあの感覚に似ている…!
思い出した。
だけど、どうすればいいのか、ヒソカはそれがわかっていない。
女の悦ばせ方なら知ってる。
でも、この事案はソレに当てはまらない。
溢れかえった疑問符にヒソカは困惑するだけ。
もう…キミはボクを混乱させる天才だね♥
苦笑を浮かべて、机にへばりつくサブリナを見た。
今のヒソカにはただ話に耳を傾けることしかできない。
「サブリナ、大丈夫?」
ゴンが心配そうに除き込むと、シズルがケタケタ笑う。
「穴があったら、入りたい気分なのよ。
ね、サブリナ〜」
「それより、あんたを殴り飛ばしたい気分よ」
髪の隙間から右斜め前のシズルを睨んで、サブリナはまた目を伏せた。
「で、今度は何を企んでるの?」
妖しげな笑みでそう問いかけたシズルに、サブリナは顔を上げた。
「この先起こるゴダゴダにどう介入すれば、思惑通りに事が進むか」
「ああ、あれね。そんなに悩む?
たまには、傍観に徹したら?」
2人だけで会話が進み、周りは置いてきぼり。
「そんなことしたら、後が面倒…。
しかも、今回は不確定要素が多すぎ…」
「疲れた…」と、言ってサブリナはまた顔を伏せた。
だらしなく寝ている様は何度か見てるが、だらしなく崩れている様は初めて見る。
サブリナの向かい側に座り直したシズルは「お疲れ」と、その頭を撫でた。
「でも、たまには、いいんじゃない?
弱ってるあんたも。
レアだし、一応、今はただの女に限りなく近い状態なんだし」
「それじゃあ、存分に見ててってよ。
私のレアな状態を」
苦笑を浮かべるサブリナは、体を起こして左にあるガラスに預けた。
月に照らされたその顔には疲れが色濃く見えていて、今にも倒れてしまいそうだ。
「人間って色々大変ね。
少し寝なかっただけで、こんなに疲れるし、痛みだってあるし、臭いとか熱いとか冷たいとか、色々な感覚があるし…」
力なく呟くと、サブリナはその瞳を閉じた。
「でも、まあ…アリかもね」
柔らかい笑みを湛(たた)えた時、ファスコがチリンチリンとベルを鳴らした。
「皆さま、食事の準備ができました」