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□感情の名前
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目が通りを見ていた。
ぼっーとしていた事に気付いて、慌てて手を動かす。
昼間のファミレスは混むのだから、急がないといけない。
『何やってんだろ?』と、自嘲気味に小さくため息を吐いた。
「ねえ、ナマエ。
最近、ため息をばっかりだよ?」
テーブルを片付けて、バックヤードに戻ると、同じアルバイト店員仲間が話しかけてきた。
「そうかな?」
ナマエは笑うが、その笑顔はなんともぎこちない。
「そうそう!何か最近変だよね」
食器を洗い場に入れながら、トレイに料理を乗せていると、別の仲間も話に加わった。
その時、チーンと音が響いた。
「あっ!私、レジ行くね」
ナマエは持っていたトレイを仲間に渡して、レジへと行った。
「何かな、あれ?」
「何か面白そうな予感」
2人がナマエの後ろ姿を見ながら、好奇心に火を点けた。
「お前ら、働けー!」
その時、バックヤードに戻ってきた店長の怒声で2人は慌てて仕事に戻った。
お昼のピークが過ぎた頃、ソレはやって来た。
ポーンと音が鳴って、電子板にテーブル番号が表示される。
「44番、光ってるぞー」
奥で料理をしている店員から、声が飛ぶ。
その時、バックヤードにいた店員は、皿を片付けていて手が離せない。
と、その時、タイミング良くナマエがバックヤードに戻ってきた。
「ごめん、ナマエ、出て」
先輩アルバイト店員の指示に「了解です」と、ナマエは笑って、バックヤードを出たが、ナマエは注文の聞き取りが苦手だった。
「ご注文はお決まりですか?」
ペンを持つ右手に力がこもり、聞き漏らさないように、ハンディを睨み付けている。
「やあ♠ボクのこと覚えてるかい?」
「えっ?」
注文ではない声にナマエは素っ頓狂な声と顔を上げた。
客の顔を見て、今度は「あっ…!」と声を上げた。
「その節は申し訳ありませんでした」
ナマエは客にペコリと頭を下げた。
この客こそ、ナマエが注文の聞き間違えをした相手だ。
「あの事なら気にしなくていいよ♣」
赤髪の男がにこりと笑う。
「今日は間違えないように、がんばります!」
男に合わせてナマエも笑う。
「じゃあ、いくよ♥
ティラミスとカモミールティーをお願いするよ♦」
「はい、ティラミスと…カモミールティーですね?」
「うん、あってるよ♠」
聞き取りよし!ボタンの押し間違えなし!
と、小さくガッツポーズをする。
でも、念のために…。
「では、もう1回確認を…。
ティラミスとカモミールティーでよろしいですね?」
「うん、間違ってないよ♣」
男の笑顔に送り出され、ナマエはバックヤードに戻った。