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□ヒトデナシロマンス
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外は雨でもう朝だと言うのに、表も中も真っ黒だ。
暗く染まったホテルの一室で、キングサイズのベッドとその上で重なり合う2つの裸体だけが白く映えていた。
「ナマエ…♠」
男が眠気を混じらせて、女の名前を呼んだ。
その吐息に首筋を撫でられ、女の体がピクリと跳ねる。
「何…?」
気だるげに答えるナマエが、クルリと男の方に向き直った。
「どうして、ボク以外の男と寝るの?」
端整な顔を歪めて訊いてきた男に、ナマエはクスリと笑った。
「じゃあ、ヒソカはどうして、私以外の女と寝るの?」
ナマエの問いにヒソカもクスリと笑った。
「愚問だったね♣」
「ええ、愚問よ」
また、クルリと向きを変えて、眠りの体勢に入ったナマエを後ろから抱き締める。
「でも、愛してるのはキミだけ♥」
「私も愛してるのはヒソカだけ」
ヒソカの囁(ささや)きに応じて、ナマエは目を閉じた。
言葉なんて、軽過ぎて意味がない。
嘘も真実も言葉で語られる以上、ただの音か絵にすぎない。
求めて求められて、体を重ね、言葉という音を交わす。
他愛もないただの一日。
「ねえ、ヒソカ」
前に回された筋肉質の腕を、腕で包みながら声をかける。
「なんだい?ナマエ」
返答を耳元でされ、また体が反応する。
「どうして、私を殺さないの?」
するりと腕をほどき、ヒソカの方を向いてから、訊ねた。
「じゃあ、ナマエはどうして、ボクを殺さないんだい?」
赤い唇が弧を描きながら、優しく重なる。
それが離れてから、ナマエも口角を持ち上げた。
「愚問だったわね」
「うん、愚問だよ♦」
こんな時、二人はつくづく思うのだ。
言葉は軽過ぎると。
意味のない音と絵なのだと。
「愛してる」
「愛してる♠」
それでも、この一言は欠かせなかった。
体温を共有する安堵と相手に殺されるかもしれないスリルを楽しみながら、二人は体を引っ付けて眠りに堕ちた。