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□てのひら、あつく
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映画はホラーもの。
難色を示すナマエを半ば強引にそれを見るように仕向けた。
「怖いのかい?」
意地悪く笑ってみせると、隣に座っているナマエは「全然」と首を振った。
が、笑顔がひきつっているのが見てとれる。
「じゃあ、ボクの手がなくても大丈夫だよね♠」
さっきから握っていた手をパッと放して笑うヒソカに、ナマエは内心頬を膨らませた。
しかし、チケットを買う前に「怖くない」と言ってしまった手前、「もちろん」と言うしかなかった。
ニヤニヤ笑うヒソカの魂胆に気付かずに。
やがて、照明が落とされ、辺りは闇に包まれた。
ストーリーは気になったので、ナマエは手で目を覆って、その僅かな隙間から映画を見ていた。
登場人物の行動や曲調で、どのタイミングにヤバいのが来るかわかっているので、タイミングを合わせて隙間を閉じる。
もしも、タイミングを間違えたら、大惨事だ。
そんな事わかりきっていた。
わかりきっていたのに、タイミングを間違えた。
大迫力のスクリーンに映し出された髪の長い女。
黒髪とは対照的な白のワンピースに所々血をつけて、女は言うのだ。
「こっちにおいで♣」
「ひっ!!」
ビクッと飛び上がって、悲鳴を上げたナマエ。
囁きかけた声の主はその様を見て、お腹を抱えている。
「ヒソカさん!!」
無声音で怒鳴ると、ヒソカはますます面白がった。
映画館なので声は殺しているが、あの震えようから大爆笑しているのは丸わかり。
怒りと恥ずかしさから、ナマエはそっぽを向いた。
「ゴメン、ゴメン♦
あまりにも、予想通り過ぎて♠」
「本当に悪いと思ってるなら、笑うのやめてくれません?」
謝ってはいるが、まだまだ笑いが収まらないヒソカに、ナマエはしかめっ面。
「それに、どこから予想していたんですか?」
低い声で訊ねてみるが、焼石に水。
サラリと「最初から♣」なんて言うもんだから、ナマエはますます膨れた。
が、映画の効果音にびっくりして、肩が跳ね上がる。
「貸してあげるよ♥」
そう言われて、目線を落とすと、映画が始まる前に離れていった手が差し出されていた。
ナマエはブスくれながらも、ニッコリ笑うヒソカの手を握った。
「小さい手♦
少し力を入れたら、潰れてしまいそう♠」
爆笑の余韻を残しながら、ヒソカは呟いた。
「女性としては標準サイズですよ」
不機嫌な声でナマエは答えたが、ヒソカの大きな手に不思議と安堵を覚えていた。
映画館を出るとちょうど6時30分。
2時間近く座っていただけなのに、お腹はペコペコだった。
「どこかで食べるかい?」
「食べます!
予算は1000Jなので、行くときに見かけたファミレスでお願いします」
「OK♠」
2人はまた歩き始めた。
コンクリートジャングル内の飲食店街。
至る所にいい匂いが立ち込めていて、食欲をそそる。
「ところで、映画は面白かったかい?」
「ストーリー"は"良かったですよ」
強調して言うナマエにヒソカは思い出し笑い。
よっぽど、面白かったのだろう。
声を出して笑っている。
その様子にナマエが膨れたことは言うまでもない。
「じゃあ、また誘うよ♥」
「今度はホラー以外でお願いします」
ツンとして言っても、もう遅い。
ヒソカは肩を揺らしながら、「はいはい♣」と言った。
「あっ!あそこのファミレスです」
ファミレスを見つけたナマエのテンションは一段階に上がり、足早になる。
「速く速く」と急かす目線に、ヒソカはナマエに合わせて緩めていた歩調をいつも通りに戻した。