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□dye or be dyed?
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何がどうなってこんな状況になったのだろう?
駅から離れた静かな住宅街。
そこで育ったナマエは今も昔も隠れる事は得意だ。
よく近所の友達とかくれんぼをしては、「ナマエー!ギブだから、出てきてー!」と、何度も言わせた記憶がある。
あの時はとても楽しかった。
何度も目の前を通り過ぎて行く友達の影を見ては、笑いをこらえた。
たまに、クスクスと笑う声で見つかる事もしばしば。
しかし、今はそんなミスはできない。
なぜなら――――。
「おい!しっかり探せ!」
「こっちにもいねーぞ!」
「あのクソ女(あま)、どこに行きやがった!?」
なんなのよー!!この状況!!?
男たちが通り過ぎて行く足音に、ナマエは息を殺した。
最近、会えてないなあ…。
テーブルを拭きながら、ナマエはため息を吐いた。
そんなナマエを見逃さず、食器を運んでいた先輩が茶々を入れる。
「赤毛の彼の事でも思ってるの?」
「ふぇっ!?」
驚いて振り返るナマエに、先輩はますます楽しそうに笑う。
そんな風に笑われると、ナマエはむきになるを知っているからだ。
「ち、違います!
来週、レポート提出だなぁって考えてただけです!」
無声音で返すナマエの赤い顔を見て、先輩は口角を吊り上げる。
「あら、そうなの?
顔は正直で真っ赤なのに?」
「なっ…!!?」
その返しに耳まで真っ赤になったナマエの口は閉じてしまった。
無言でテーブルを拭くナマエを横目に、先輩はバックヤードに消えて行った。
先輩がいないのを確認して、ナマエはまたため息を吐いて、苦笑を漏らした。
あんな言葉なんて、気にしなくていいのに…。
からかいだとわかっている。
わかっているが、先輩の言う"彼"の顔が消えない。
だから、試しに自問してみる。
私はヒソカさんのことが……好き…………なのかな?
しかし、その自問に答えたのは、頭ではなく心だった。
きゅっと心臓を掴まれたように苦しい。
その苦しさは「きゅう…」と効果音がつきそうなほど、しっかりと胸に刻まれた。
そこから先の記憶がない。
仕事は完璧にこなした。心ここに在らずの状態で。
恋って…………自覚するといろいろ大変かも。
そんな事を考えながら、いつもと同じ帰り道を歩いていた。
たった1つ違うのは、壊れた掃除機の代わりを買うために、10万ジェニーほど持っているということ。
ちょうど、母の誕生日も近いので、値は張るが良い物を買うつもりだ。
貯める一方で使う機会が少ないので、ナマエの気分は上々だった。
「ナマエ!」
聞き覚えのある声に呼ばれ、ナマエは後ろを振り返った。
「先輩っ!?どうしたんですか?そんなに慌てて」
息を切らして膝(ひざ)に手をついたバイト先の先輩は、困ったような怯えた顔をして言う。
「お金、貸してくんない?」
「えっ…?」
きょとんとしたナマエにすがりついて、先輩は叫んだ。
「お願い!ちゃんと返すから!」
悲鳴に近い高い声が耳に響き、ナマエは狼狽(ろうばい)するばかり。
「どういうことですか?
ちゃんと、せつめ」
「いいから、貸してってば!」
ナマエの言葉を遮り、そのカバンをひったくらんばかりの勢いで引いた。
「先輩、いい加減にして下さい!」
ナマエも負けじとカバンを引っ張って、先輩から距離を取る。
警戒する猫のようなナマエを見て、先輩はなだめるような口調で言う。
「お願い、ナマエ…。5万ほどでいいの。
私とあなたの仲じゃない、ね?お願い…!」
「生憎、私はお金を貸し借りできるほど先輩と仲がいいとは思いません。
それに金の無心に来るような人は信用できませんし」
4回生と言う彼女はまだまだ学生。
何かあれば、まず親を頼るだろう。
それを飛ばしたように見える彼女の要求は、安易に容認できるものではない。
キッパリと断られたにも関わらず、先輩は変わらず悲痛な声で叫んでいた。
呆れたナマエが無視して、立ち去ろうとした時。
「残念だったなあ、カリナちゃん」
「ああもキッパリ言われちゃあ、アウトでしょ」
ナマエがド忘れした名前を言いながら、先輩ことカリナの後方から湧いたいかにも危なそうな男2人。