a lethal dose of toxicant

□two drops
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やっぱり彼らじゃ、ボクを満足させることはできなかった。
変に煽られた昂りだけがボクの中で燻(くすぶ)っていた。

「これじゃ、骨折り損のくたびれ儲けだよ♠」

やるせない気持ちでボクはため息をついた。
街で数人、殺してから帰ろう♣などと考えながら、ボクは地下室のドアを開けた。

ドアを開けたボクが目にしたのは、ハクレンがターゲットの首をナイフで掻っ切る瞬間だった。
その足元にはターゲットの娘。
血飛沫を全身に浴びた小柄な少女は、ボクに気付くや否や、不自然に垂れた左手を揺らしながら、手にしたナイフを振りかざし、襲ってきた。
その光景と彼女の行動には、驚いたけど、ボクはとっても、とっても…興奮した。

それに、あの時の彼女の瞳はとても美しくかった。
今、思い出しても、ゾクゾクする…。
それは本能を剥き出しにした獣そのもの。
手負いの獣が決死の攻撃をする際の、殺意や生への執着、怒りに憎悪がこもった激しい瞳。
ボクは一目で彼女を気に入った。

ボクはひらりとハクレンの攻撃をかわすと、その背中に4、5枚、トランプを投げつけた。
ナイフが床に落ちる音と共にハクレンは呆気なく倒れた。
一瞬、殺してしまったのではないかと心配になったが、抱き上げると呼吸はしっかりとしていた。
ボクは証拠を消すために、屋敷に火を放った。
何十人もの死体を食らって、ゆらりと揺れる炎は、ハクレンのあの瞳によく似ていた。
  
  
  
  
  
なぜ、ハクレンがターゲットとその娘を殺したのか。
あの地下室にあった道具とハクレンの体に残った様々な傷を見れば、理由はわからないがあの2人がハクレンを拷問していたことがわかる。

そして、ハクレンは隙を突いて、反撃したのだろう。
ただ、不思議なことに死体の傷には躊躇(ためら)った跡がなかった。
綺麗に且つ的確に首の動脈を引き裂いていた。

そのことが偶然かどうか、この子が起きた時に訊いてみよう♦
ああ、でも、まずはこの猛りを鎮めないと…♠
  
  
  
  
  
ボクは借りてあった部屋に着くと、ハクレンの傷の手当てをした。

まず、脱臼した左肩をはめる。
そして、トランプを抜いて服を脱がすと、切り傷や火傷をメインに、打撲痕が所々見られ、使った器具すらわからない傷もあった。
殺すことを目的にしてないだけあって、傷は浅い。

傷を消毒して包帯を巻く。
その間、傷だらけのボクのオモチャはずっと眠り続けていた。

手当てを済ましたハクレンにバスローブを着せて、ベッドに寝かす。
その体は通常よりも熱を持っていた。
眉をきゅっと寄せ、顔色は悪い。
ボクが熱を孕(はら)んだ頬を撫でると、冷たい手が気持ちいいのか、表情が一瞬和らいだ。

「栄養価の高い食べ物がいるね♣それに服も♦」

ボクはハクレンの額にキスをして、部屋を出た。
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