小説

□幸福の在処 1
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少女との出会いから3日、この日は試験期間最終日だった。

いつもは病弱でまともに学校に来られない設定のプロシュートも、
試験だけは落とさず受けていた。
なにせ出席日数がぎりぎなのだから、試験で補填しなければまともに卒業できない。
将来何をしようだのどんな仕事をしようだの、まったく考えていないプロシュートだが、
どんな仕事につくしろ学歴が邪魔になることはあるまい、と考えていた。
だからこそ、学内、特に教師の前では
"病弱で授業は休みがちだが、勤勉で良識ある生徒"
という設定を貫きとおしていた。

その自らを縛る設定のせいで余計に学校が面白くないのだが…。



とにかく試験を全て終え、さあ帰るかと教室を出たところで

「プロシュートおにいちゃん!」

急に響くとんでもない呼び声。
呼ばれたのは自分だろうと思いつつ反応するのはひどく恥ずかしいものだった。
プロシュートはゆっくりと振り向く、呼ばれた方へ。
まさか、とやっぱり、という相反する感情が同居しているのを自覚しつつ。


「……」
「こんにちは!また会えてよかったです」

プロシュートを呼び止めたのは、先日の迷子だった。
にっこり笑って嬉しそうに手を振っている。

慌ててプロシュートは名無しさんを捕まえて廊下の端に引きずる。
周りに聞こえないよう声をひそめる。

「おにいちゃんなんてデカイ声で呼ぶなっ」
恥ずかしいと言外に告げたつもりだったが、
彼女はきょとんと
「だめなの…?」
「だめだやめろ」

「なんてよべばいいの?」
「フツーに名前でよびゃあいいだろーが」

「じゃあプロシュート」
「なんだ」

「あの、わたし来週からこの学校にかようの」
「みたいだな」

13歳というのは嘘じゃなかったようだ。彼女は学校のパンフレットを手にしていた。
「だから、そのぉ…あの…」

「…」
もじもじと両手で学校案内を弄る名無しさん。

プロシュートは彼女が何を言いたいのか、3つほど候補を上げることができたがどれもお断りだ。
断りの文句を3パターン用意した。

「ええと…学校のなか、おしえてくれたらいいな…とおもったの」

(ほらみろ)

予想通りのお願いに分かりやすいヤツだ、とため息をつき、
用意した断りの口上を述べようとした時、

「名字さん」

教師が声を掛けてきた。

「はい」

返事をしたのは名無しさんの名字が名字ということのようだ。
近づいてきた教師はプロシュートに気づき、おや、と声を上げる。
「プロシュートと友達だったのかな」

プロシュートは慌てて否定しようとするが、
名無しさんはすかさず、

「このあいだ道に迷っていたところをたすけてもらったんです」
笑顔で暴露してしまう。

教師はうんうんと嬉しそうに頷く。
まだ年若いこの教師にとって、
問題を起こさない手のかからない生徒は、ありがたい存在なのだった。

「さすがはプロシュート。名字さん1番に彼と知り合いになれてよかったね。彼は成績優秀で人物も間違いない。」
教師は本人の前でもべた褒めでプロシュートを讃える。

「いえ…ありがとうございます」

プロシュートとしては少し謙遜しつつも素直に賞賛を受け入れるしかない。
それが彼のここでの役だからだ。

「そうだ名字さん。彼に学校を案内してもらったらどう?」

ねえ?いいだろう?と機嫌の良い教師に問われ、
プロシュートは微笑んで頷き、

「もちろんです、よろこんで」

このセリフを言う他なかった。







To be continued
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