小説

□幸福の在処 2
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「おかえりー」

メローネが声を掛けても、アジトに戻ってきたプロシュートは返事をしない。
視線だけ投げて、無言だ。

「…」

ちょうど居間に出てきていたリゾットも声を掛ける。
「ご苦労だったな、…プロシュート?」
どうも常の彼と様子が違う、とリゾットは感じる。

「…ああ、報告な」
プロシュートは思い出したようにリゾットの顔を見返す。
「対象の姿は確認した。30代女金髪情報通り間違いない。
あとは生活習慣調べて…そうだな4日もあれば片付けられるだろ」

そう言ってテーブルの上に写真を投げる。
その写真には中央に金髪の女性が写っている、しかし明らかに隠し撮りと分かるアングルだった。

「クスリ売ってる現場は押さえなくていいんだな?」
「ああ、その女が黒なのは確定しているそうだ。
おまえはヤルだけでいい」
リゾットはテーブルの上から写真を拾いあげ、女の顔を一瞥し、裏返す。
そこにかかれているのは組織からの指令。

対象 レオーナ(推定35歳)
組織に無許可で麻薬密売
毎週水曜日午後にカフェトリメストラーレに行く習慣有り
本指令到着後至急対象を確認し、1週間以内に始末せよ

リゾットはプロシュートに頷いてみせる。
「この件はおまえに全て任せる。ぬかりなくやってくれ」
「わかってる」
素直に返事をするプロシュートにリゾットは少し首を傾ぐ。
「…何かあったか?」
いつもならこのあたりで軽口が飛び出すところなのだが、今日のプロシュートはやけに大人しい。
「なにもねぇよ」
一言それだけ返して、プロシュートは自室に下がってしまった。

残されたリゾットはメローネを見る。
「何かあったのか?」

「オレにきく!?知らないよ〜…あ」
メローネはにやと笑ってリゾットの手から先程の写真をとった。
「まさかさぁこの金髪女に惚れたとかさぁ」

もちろんジョークだったのだが、
「プロシュート!」
真面目なリゾットには通じなかったようで、プロシュートの部屋へ突撃しようとする。

「うぉわリゾット!ジョークだよっちょっと!」

慌ててメローネが止めることとなった。

「…冗談なのか」
「あたりまえ、この女プロシュートの好みじゃあない」

「そうなのか」
「そうなのープロシュートは金髪じゃなくってブルネットが好きなんだよねぇ」

「…よく知ってるな」
「まあね。あいつが連れてる女の傾向見てればわかるよ」
そうか、とリゾットは頷くしかない。どうも自分には全く理解できない範囲の話だったからだ。

「…じゃあなぜ様子がおかしい?」
「…さあ?」


結局問題は解決せず。
しかしリゾットはチームの頭として、心配事をそのままにしておくわけにもいかない。

「メローネ。プロシュートの様子を見ていてくれ」
「オレぇ??………なぁんて、暇だしプロシュートに興味あるしいいよ」

リゾットからの個人的な指令をメローネは嬉々として承諾した。










プロシュートは自室に入り、ジャケットを脱いで椅子の背にかける。
いつもならば手入れをしてクロゼットに戻すところなのだが、今日はそれをしない。
このジャケットはクリーニングに出さなければ。

彼女の香りが残っている気がしてならない。
きっと涙も染み込んでいるだろう。
そしてポケットにはメモとハンカチが入っている。

(捨てりゃいいんだよ)

ポケットから出してゴミ箱に放り込めば、片付く。
今まで通り、何も問題ない。

しかし結局何もせず、ただベッドに転がった。



天井に広がるシミをぼんやりと数えながらプロシュートは考える。
彼女は連絡を待っているだろうか。
いや、と彼は即座に否定する。
きっと彼女は今頃あの待ち合わせの男といっしょにいるだろう。
名無しさんが連絡先を渡してきたのは、子どもだった頃を懐かしみたいだけか、社交辞令だ。


会ってはいけない。

もう住む世界が違いすぎる。

そう結論付けて、眠るために目を閉じた。

(そういやぁ…)
一瞬、彼女と連れ立って歩いて行った男の様子を思い出す。

「あいつ趣味わりぃな」

プロシュートはつい、一人呟く。



しかし、
もうそんなことどうだっていいことだ。
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