刀剣乱舞

□I merely
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春の麗らかな本丸。
桜の落ちる縁側で、三日月宗近らが茶を嗜み、庭で短刀たちが嬉々として遊んでいる。
こんな天気の良い日は私だって外で遊びたいのに。
「んもーー!!なんだって政府ってのは・・・!」
居室で、審神者の私は山積みの書類と闘っていた。
どこもかしこも文字文字文字。
片っ端から目を通して判を押して。
もう一枚で一山終わる。
「あーるーじーさーまー!!」
「うわあっ!?」
今剣がのしかかってきた。
ドシャッと嫌な音を立てて崩れ落ちる、今しがた終わったばかりの書類の山・・・。
一瞬今剣を怒鳴り付けたくもなったが。
明らかにしゅんとしてるし。
・・・やめよ。
「今剣。主の邪魔をしてはいけないよ。」
声の主は近侍の石切丸さんで。
茶と菓子の乗った盆を手に、器用に書類をかき集めていた。
「主がお疲れだろうと思ってね。茶でもどうかと思って来てみたら。」
え?
うわ、ちょっと待って。
確かその書類の中には刀剣達に見られちゃいけないものがあったような・・・!
「わーーーーーっ!!!!!」
いきなり大声で叫んだ私に石切丸と今剣はピタッと動きを止めた。
「・・・あ、主?」
「あるじさま??」
「いい!ごめん石切丸さん、書類の片付け自分でするから・・・!お茶!今剣の分も淹れてきてもらえるっ!?」
ああ、そうだねと頷き、盆を置いて部屋を出ていく石切丸。
・・・これで、バレて一番やばそうな刀にはなんとかバレずにすみそう・・・。
「あるじさま、どうしたのですか。ものすごくあせってる・・・」
「い、今剣は石切丸のお手伝い、できる?」
「は、はい。」
私の無理矢理作った笑顔に恐怖したのか何なのかはわからないが、今剣は一瞬竦み上がってすごい速さで部屋を出て行った。
部屋に散らばった書類を私は二人が戻って来る間に豪速で片付け、最もやばい書類を袂に隠す。
・・・これで、大丈夫。
石切丸さんの置いて行った盆を机の上に置いて、二人を待つ。
大丈夫、大丈夫。
「あるじさまーもどりましたぞー」
今剣が元気に跳ねる。
「ああ、おかえり。」
「書類は片付いたようだね。」
今剣の分の湯飲みを片手に部屋をざっと見渡し。
片付いたと見るや腰を下ろした。

「主?」
夜も更けた、私室を石切丸さんが訪ねてきた。
「ん・・・どうしたの。もう遅いよ?明日は石切丸さんは出陣してもらわなきゃいけないんだから・・・」
半ば寝ぼけ眼の私は少々機嫌が悪い。
一向に腰を下ろそうとしない石切丸さんに違和感を覚えて、顔を見上げてみると。
「・・・石切丸さん?」
いつもの穏やかな顔じゃ、ない。
「・・・主は、私に何か隠し事をしているね。」
―――昼間の!
壁に両手を付かれて身動きが取れない。
濁ったその目は、嘘を見抜こうと私の目を見つめてくる。
「・・・し、してないよ?」
「自覚していないようだけれど、主は嘘が下手だからね・・・。私は騙せないよ?」
光を持たないその目に、私は竦み上がる。
どうしよう、どうしよう。
あれだけは、石切丸さんに知られたら。
「・・・それともバレていないとでも思っていたのかな。」
「・・・え?」
石切丸さんは私の耳元でささやいた。
―――私にとっての破滅を。
「・・・審神者は、私達刀剣に本名を知られてはならないんだろう?・・・ありす。」
―――何!?
体に力が入らない――っ!
崩れ落ちた私を、瞬時に支えた石切丸さんは、そのまま敷かれた私の布団に組み伏せて。
「・・・どう、して?」
覆いかぶさった彼は、とても嬉しそうな顔。
「主は詰めが甘いからね・・・。私を近侍にした時点で、こうなることは決まっていたよ?・・・ねえ、ありす?」
―――ドクンッ
体が瞬時に熱くなる感覚に、狂ってしまいそうになる。
頭が、沸騰する。
「・・・大丈夫だよ?こんな、溶けた顔の君。私以外の誰にも見せるわけがないからね。誰にも教えないから。」
ささやきながら、着物を暴いていく彼はもう、誇り高い大太刀ではなくて。
―――ただの、ケダモノ。
何度も名前を呼んでくれるその口が、体中に触れるその大きな優しい手が。
もう、どうしようもなく欲しくて。
「・・・君から私を求めるようになるまで、おあずけだよ。」
優しく耳元でささやかれる絶望に、私は自分が堕ちてゆくのを実感した。
―――ああ、私はもうヒトノ世には戻れない。





「―――やっと、手に入れたよ。もう二度と、この手から逃がさない。」
 

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