刀剣乱舞

□Cherry Daughter
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桜舞い散る、暖かな本丸。
今年も君はやってきた。
「石切丸、久しぶりね?」
主の妹だという彼女はいつもこの時期に1、2週間ほど本丸に滞在している。
真っ白な肌に桃色の頬。
その唇はまるで熟れた果実の様で。
「久しぶりだね、ありす。元気にしていたかい?」
「ええ、もちろん!」
久しぶりに会う為か、彼女ははしゃいでいた。
―――ああ、可愛いね。
「あら、知らない人がいるわ。新入りさん?」
対岸の廊下を歩いていた決して小さくない狐―――小狐丸を指さして、彼女は首を傾げた。
彼は、主が最近鍛刀に成功した新顔だ。
とはいえもう二月は過ぎているので新入りであることを忘れそうになるが。
「挨拶してくるわ。」
私の隣からぱっと駆け出すと、勢い余ったのか彼にぶつかったのが見えた。
「ぷっ」
わああごめんなさいごめんなさい、と小さく聞こえる慌てた声に、頬が緩む。
「珍しいな、あんたが吹き出すなんて。」
「・・・ああ、鶴か。」
偶然通りかかったらしい鶴丸国永が、私を怪訝な顔で見る。
尚も大慌てで謝り倒し、ついでに自己紹介も兼ねてしまった彼女を指さすと、鶴は納得したようだ。
「ありすといる時が一番楽しそうだよな、あんた。」
図星を突かれてぐっと言葉に詰まる。
「・・・おお、図星か?これは驚いたな。」
「鶴だってありすが嫌いなわけではないだろう?」
「・・・まあな。」
すっかり小狐丸と打ち解けたらしいありすは、こちらを見て手を振っている。
・・・私にではなく、鶴にだが。
手を振りかえす鶴の顔も心なしか綻んでいるように見えるのは私の気のせいだろうか。
小狐丸とありすの談笑するそこに、主が現れた。
見ればこちらにおいでと私たちに手を招いている。

「今いる子たち皆揃ったし、おやつにしましょっかー。こんなに綺麗に桜が咲いているのだもの、お花見しなくちゃ勿体ないわよ。」
そう言って主はお重を広げて。
「お姉様いつ作ったのこれ。」
色とりどりのちらし寿司やおかず、甘味も揃って。
「今日の朝。皆で食べようと思ってさあ。」
皆に重を振る舞う主はそれはそれは嬉しそうだ。
「ありすには年に一回しか会えないんだもの。これくらいするわよ。あ、お酒は禁止ね。」
その一言に主に鶴から不満の声。
ここに三日月がいればこの声はもっと大きく上がっただろうが。
あいにく今日は不在だ。
「全部食べないでね。出陣してる子たちが戻って来たらまた広げるから。」
言われなくとも、こんな巨大なお重に入った多量の料理はこの人数では食べきれまい。
一年に一度しか姿を見せないありすは皆にちやほやされて、とても楽しそうで。
大人ぶっているけどその所作はまだ子供の様で。
―――ほら、口の端にご飯粒付けて。
「ありす、ここ」
向かいのありすに、自分の口に指さして教えてあげると。
逆を触って首を傾げて。
ああ、そんなところも私の予想を裏切らないんだ。
「逆だよ。」
いてもたってもいられなくてその粒を拭ってやると、恥ずかしそうに俯く君。
可愛い。全てが。
―――君は、覚えている?
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