☆ Long Storys ☆

□08 LOVE(出会い編)〈完結〉
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怪我は大したことはなく、軽い捻挫だった。



「ほっとしたよ。」


「ごめんなさい。」


「どうして謝るんだい?」


「だって………」



彼の額の汗を指さす。



「あっ。
 鍛え方が足りないかな。」


「はい。」

と、ハンカチを差し出すと


「サンキュッ」


受け取りながら、
照れて笑う彼の口元から
八重歯がのぞいた。



「くすっ」


「えっ
 俺、なんか変?」


鼻をこすりながら慌てている。



「いえ、別に……」


可愛いなと思った。


男の人に対して
そんな風に思ったことなかった。


自分より年下に見えたからかな…。


自分でも驚いた。




再び自転車に乗り、アパートに着いた。




階段を昇る最中、彼は肩を貸してくれた。


細そうに見えたのに、
がっしりと太い腕だった。



「俺の部屋の隣に住んでたんだ・・・」


「あ、はい。
 でも会ったの初めてですよね。」


「そうかもね。
 俺、ここは趣味の部屋だから。」


「趣味?」


「そう!
 俺、釣りが好きなんだよね。
 だけど免許ないから、
 朝早く港まで来れないし。
 だから海の近くに部屋を借りたんだ。」



目をキラキラさせながら、
楽しそうに話している。



「そうだ!
 今夜は遅いからダメだけど、
 今度俺がここ来た時、
 ごはん一緒に食べようよ。」


「……ごはん?」


「そっ。
 俺が舟出してもらう船長のとこ、
 和食屋やってるんだよ。
 そこの魚、うまいからさ。」


「はぁ…」



軽く相槌をうっているうちに


「じゃ、約束だよ!」


と手をあげ、
彼は部屋に入ってしまった。



「………んもう。」


私、ちゃんと返事してないのに…。




でも今度って言ってたから、
会わなければそれもないか。



こういうの慣れてないから、
あんまり気のりしない。



鍵をあけて、自分の部屋に入った。



今夜は隣の部屋にさっきの男の人がいる。

悪い人ではなさそうだけど……。



そんなことを考えながら、
いつの間にか寝てしまった。




朝起きると、
壁越しに昨晩はしていた物音もしない。


もう隣の彼は出かけてしまったようだ。


なんとなく、ほっとした。



足の痛みもひいてきて、歩けそうだ。



身支度をして玄関まで行くと
郵便受けに1枚のメモ。



『ごはんのこと、約束だよ』



ドキンと心臓が大きく鳴った。


社交辞令かと思ってたのに……。

私を誘うなんて。

 
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