☆ Long Storys ☆

□魔王アナザーストーリー〈完結〉
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彼女の身体がピクッとした。


「大丈夫です・・・傷は浅いようですから。
 消毒液はありますか?」

「・・・・・」

「しおりさん?」


彼女の顔を見ると、真っ赤になっている。



しまった・・・後悔の念がよぎる。


「・・・成瀬さん、私・・・」


彼女は一点を見つめたままだ。



僕は、彼女の言葉の続きをさえぎるように、
そしてさっきの行為をはぐらかすように言った。


「・・・痛いですか?」

「・・・・・」


返事はかえってこない。

みるみるうちに彼女の眼に涙がたまっていった。


「しおりさん・・?」


涙がぽろんとひとしずく流れ落ちた。


「ごめんなさい・・
 優しくしてもらったのに・・・
 泣くなんておかしいですよね・・・」


涙しながら一生懸命笑みを浮かべる彼女に、
もう僕は気持ちを抑えることができなくなってきた。


「・・・成瀬さん!」


彼女は僕の胸に顔をうずめて、

「私・・・痛いんです。
 成瀬さんのことを考えると、
 胸が痛くなるんです・・・」


彼女は小さく肩を震わせていた。



僕はその言葉にどう答えるべきなのか、
いや、答えていいのか・・・・・
答えたい・・・



そのまま少しの時間が流れ・・・



僕は、彼女の手をとり、
その甲に優しくキスをした。


「僕はいつでも、
 しおりさんのことを見ていますよ」


それが今の僕にできる精一杯だった。
 
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