夢喰
□偸盗―act4 種子
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「お前がやったんだろ!!」
響く怒声。ざわめく店内。
美濃川陽菜は今、謂れのない罪を目の前の男から着せられようとしていた。
万引き。彼が示す自分の罪状がそれである。
この店の店長を名乗る男に唐突に詰め寄られ、突き付けられた身に覚えのない罪に、困惑を通り越し軽く混乱する。
「あの…私、何も盗んでなんていません!」
濡れ衣であると陽菜が声高に否定すれば、了承もしていないというのにも拘わらず男は無理矢理、鞄に腕を突っ込み中をまさぐり始めた。
「ちょ…や、止めてくださいっ!!」
男の暴挙を陽菜は必死になって止めようとするも、力では叶わずなすがままに中を蹂躙されてしまう。
強引過ぎるその対応に意を唱える者は誰も居ない。
皆、煩わしい、面倒臭いと、或は興味本意で端から見ているだけで、誰一人として自分を助けてくれる者は居なかった。
やがて、
「ほら見ろ!やっぱり隠し持ってたじゃないか!」
鬼の首を取ったかのように、男は高々とその拳を掲げた。
鞄から引き抜いた彼のその手の中には、まだ封がなされたままのペンが一本握られている。
「そんな…!?そんなの私、知りません!」
信じられない。
そんな物、自分は手にした覚えは一度もない。
ふるふると、頭(かぶり)を振り潔白であると訴えるも、事実として明らかにそこにある物に対し、自分を擁護してくれるものは一人も現れる事はなかった。
孤立無援なこの状況に泣き出しそうになる。
「ちょっと、裏で話を聞かせてもらおうか?」
男はこちらの手首を乱暴に掴むと、店内から人気のないバックヤードへと自分を連れ出そうとした。
ニヤリ。見上げたその横顔、微かに歪んだ彼の口許には確かに愉悦が含まれている。
垣間見えた男の素顔に、陽菜は危機感を覚え強くそれに抗った。
「ま、待ってください!誤解です!!私、本当に何もしてませ…いっ!!」
尚も無実を訴えるも、男は掴んだ手に力を込めてこちらの反論を阻んだ。ギリギリと食い込む爪先に、見る間に肌が鬱血していく。
「……諦めろよ。お前の言うことなんて誰も耳貸さないぜ?痛い目に会いたくなけりゃ、大人しく俺の言うこと聞くんだな」
こそりと耳打ちするように、男は自分にそう囁き掛ける。
下卑た笑みに荒い息遣い。
異様に興奮する男の様に、彼が自分に濡れ衣を着せようとしている…加虐する意志があるという事が直ぐ様分かった。
自分はこの男に嵌められたのだと。
疑念ではなく確信として。
この目には、はっきりとした型で、男の邪な意識が映し出されていたから。